元刑事の真実にアプローチする姿

飛松五男氏といえば、元姫路警察の刑事であり、現在はテレビのコメンテーターとしてお馴染みである。

元刑事にあって、ジャーナリストにないのは捜査や逮捕等の経験。事件についてのレポートや論考はその点が期待されるが、それに十分応えうる書籍が、今回飛松五男氏が上梓した『飛松五男の熱血事件簿 私だけが知っている不可解事件の裏側と真相』である。
飛松五男の熱血事件簿―私だけが知っている不可解事件の裏側と真相

飛松五男の熱血事件簿―私だけが知っている不可解事件の裏側と真相

  • 作者: 飛松 五男
  • 出版社/メーカー: 鹿砦社
  • 発売日: 2011/06
  • メディア: 単行本

目次構成についての説明は、飛松五男氏の「まえがき」から引用する。

 

「私は二〇〇五年三月末で警察官を定年退職したが、それまでの三十六年間、もっぱら捜査畑で仕事をしてきた。そして退職後も犯罪被害者を支援する「飛松よろず相談所」を立ち上げ、地元の姫路を拠点に全国各地から依頼を受け、事件に対する地目捜査と被害者支援の仕事を行っている。

 

といっても、一般の人たちにはそれがどのようなものか具体的なイメージが湧きにくいかもしれない。そこで、私が関わってきた、もしくは現在も関わっている事件をご紹介しようと本書を執筆することにした。

 

本書第一車は、大阪・西成の女医不審死事件についてまとめた。現時点で犯人が逮捕されていないため、事件の概要を重視してまとめている。脱稿の時点で解決できていないのは大変残念であるが、いずれよい方向に決着がつくと私は見ている。

 

第二章は、秋田児童連続殺人事件や加西女教師殺人死体遺棄事件などについて、自分がどう関わってきたか、表には出ていないこんな裏話がある、といったエピソードと、個別の事件では語り尽くせなかった私の刑事としての原点や哲学、さらに姫路勤務という土地柄から、ヤクザとの関係についてもインタビュー形式で語らせていただいた。

 

第三章は、秋田児童連続殺人事件について、私が捜査活動をするときに使っている捜査ノート(B4版大学ノートに直筆)をもとに振り返ってみた。もともとこのノートは、不特定多数向けの読み物にするという前提で書いていないため、一定の編集作業を行ってはいるが、日付やその時々の思いや考えを綴った箇所はそのままにしてある。すでに判決が確定し、他の著者によって事件についてまとめた出版物も多数出ているため、こちらは事件の概要を紹介するよりも、私が事件にどう関わってきたか、事件をどのようなプロセスで解き明かしてきたかをありのまま披露することに力点を置いている」

 

圧巻は第三章である。元刑事の取材メモを読み物として再構成して公開するというのは、おそらき初めての試みだろう。

 

飛松五男氏はこう述べている。

 

「人間が知識や技術を習得する時、反復トレーニングとミーティングを繰り返す。私の捜査ノートは、たんなる記録・メモではなく私自身の自己ミーティングと反復練習の意味もある。

 

私は納得いくまで何度も現場に向かう。その都度、わかったことを書き留める。自分の知ったこと、考えている
ことをノートで確認して整理する。第三者的に見れば感情的な表現もある。未完成な認識もあるかもしれない。それはそれでいい。

 

その時そう思ったのならとにかく書き留める。前と同じことの繰り返しになっても書く。同じょうに書いても、ニュアンスなどが少しでも違えば、どうしてだろうと自問する。そこから自分の意図や自覚をしていなかった真実への肉薄を発見することもある。

 

私にとっては、書くことで事象や自分の勘・論理についての相対化、客観化を行っているのだ。それは事件解決に向けた闘いとして欠くべからざる試みである」

 

つまり、元刑事の真実にアプローチする姿をそのまま見せているのがこの書籍なのである。

 

事件そのものに対する論考ともに、試行錯誤する元刑事の心の中も同書でのぞくことができるのだ。