朝から「あえぎ声」だの「イキ顔」だの?

井ノ原快彦の影が薄くなっているかのような報道がある。有働由美子アナ(NHK)が持ち番組の『あさイチ』で、いわゆる“ぶっちゃけキャラ”が注目されているためだ。

しかし、朝っぱらから「あえぎ声」だの「イキ顔」だの「脇汗」だのを売り物にすることが、お金を払って見ている全国の視聴者が求めているものではないだろう。

井ノ原快彦の正攻法キャスターぶりを再評価

むしろ、本格派キャスターになりそびれた有働由美子アナを“際物”に追いやった井ノ原快彦の正攻法キャスターぶりを再評価すべきだ、という声もある。
問題のシーンが流れたのは午前9時14分。「セックスレスの原因の一つにセックスの際に膣に痛みを感じたり、年齢を重ねるごとに感じ方に変化が出てくる女性がいる」との説明があった後、その治療を有働アナ自ら体験したVTRの場面だった。
治療に使われたのは、座画から膣に向かって磁気が出るというイスで、骨盤底筋を鍛える器具。「普通のイスに見えますが」と言いながら座った有働アナはしばらくすると、思わず「あっ!ああ~!!」などとあえぎ声を漏らしながら、恍惚の表情を浮かべたのだ。さらに「あ~、なるほど」と納得の表情を浮かべると「何かピクビクする感じ。初めての感覚だな~」とニヤリ。医師から「鍛えてくるとキュッと締め付けられるようになる」と説明されると、初体験の“膣トレ”の快感に満足げな表情を浮かべていた。
番組の放送後、NHKには約2000通のファクスが来た。広報部によると、苦情はなく、好意的な意見ばかりだったという。(『東京スポーツ』10月21日付)

熱く語る女性陣に押されていたのが、有働アナとともに司会を務めている「V6」の井ノ原快彦(35)。言葉をほとんど発することができず、姿勢もどことなくうつむきがちだった。

放送中、ほぼ座っているだけだった井ノ原に対しインターネット上には「イノッチ終始沈黙」「何か言え」 「これがジャニーズの限界か?」など、批判の書き込みが相次いだ。「井ノ原も気の利いた一言でも言えるようにならないと」と、厳しい意見が多く見られた。(中略)

井ノ原もイメージを考えれば黙っているしかなかったのかもしれないが、「『あさイチ』の視聴率は抜群。いまのNHKは見られる番組を作らないといけないという流れがある。番組の本質は当面変わらないでしょう」 (NHK関係者)。布働アナの〝添え物″として見限られる前に、ひと皮むける必要に迫られそうだ。(『東京スポーツ』10月22日付)

東京スポーツらしいツンデレ記事ということはすぐにおわかりと思うが、重箱の隅つつきが生き甲斐の無責任な視聴者やネットの有象無象に解説すると、井ノ原快彦に「気の気の利いた一言」を求めたら番組は成り立たないだろう。止める役、異なる意見をいう役がいなければ、番組進行一本調子になってしまう。NHK朝の帯番組の「良識」を井ノ原快彦が担当しているのである。

酒席では、プロ野球、宗教、政治の話は御法度といわれる。価値観の違いからけんかになってしまうからだが、それをとってしまうと、猥談か、いない人の悪口(上司など)になってしまう。

それと同じで、番組のエロ化は、安易に最大公約数的な話題に逃げ込んだに過ぎない。

局アナの有働由美子はそれにしたがっていることと、40で独身、美人でもない以上、昨今のタレント化した女子アナに対抗するには、そんな道化も必要なのだろう。

「ぶっちゃけ」をするしかない

それとともに、井ノ原快彦はすでに、この番組では「ぶっちゃけ」ではなく「良識」を担当するキャラがすでに出来上がっており、今更「ぶっちゃけ」の方には移れない経緯もある。

 

井ノ原快彦のニュースキャスターについて、東日本大震災直後の「日刊スポーツ」(4月1日付)が芸能ニュースの紙面を3分の2ほど使って高い評価を与えた。

 

タイトルは、「井ノ原快彦 誰?から『やるじゃん』へ」。

たとえば、24日の同番組。金町浄水場から基準値を上回るヨウ素が検出され、東京都が乳児(0歳児)の水道水摂取を控えるよう呼びかけたことについて、スタジオの専門家に『幼児(5歳未満)や小学生は大丈夫なんですか?』と、まずは素朴な質問。専門家が『必ずしも1歳未満に限ったことじゃない』と答えると『じゃあ、子供は(摂取しては)ダメってことにして欲しいんですけどね』と不満顔をあらわにした。

 

また、母乳の安全性について専門家が『大丈夫』と答えると、『ただ、今まで検出されなかったものが検出されたのだから、普通の親だったら.1リットルも与えたくない。大丈夫と言われても……』と専門家に食って掛かる勢い。さらに、専門家が『半減期』を説明してヨウ素の“安全性”を説明すると『最初のヨウ素が消えたとしても、原発の問題が続けば、また新しいのが来るってことですよね』と鋭く指摘し、専門家から『その通りだと思います』とのコメントを引き出した。

 

隣の有働やスタジオにいたNHK解説員がさしたる質問もせず、東京都の呼びかけを繰り返すばかりだから、井ノ原の食い下がりが光るのだ。


どの局の報道を見ても横並び報道で、「ただちに健康被害はない」「ミネラルウォーターが手に入らなければ水道水で構わない」「被曝量はレントゲンの●分の1」といった曖昧な「安全」論に終始。キャスターたちは、それをそのまま繰り返し伝えるだけだった。

 

一人の国民、消費者の目線でしっかりモノをいってくれた「良識派」井ノ原快彦の背景には、自身が子供を持つ親という立場がある。本来なら母親の素朴な疑問を代弁すべき有働由美子アナは独身だから、彼とは背負うものが違う。「ぶっちゃけ」をやったから偉いというよりも、「ぶっちゃけ」をするしかないのだ。

 

井ノ原快彦と有働由美子アナは、今年の夏、恒例の音楽番組『第43回 思い出のメロディー』の司会をおそろいで務めた。本人たちも局も、そうした役割分担を認識しているのである。

 

イノなき

イノなき

  • 作者: 井ノ原 快彦
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2006/05/18
  • メディア: 単行本