ナチュラルな価値を評価

松田聖子が最近注目されているという。といっても、80年代のようにヒットチャートの1位にランクしているわけではない。90年代のように、これでもか、これでもかとスキャンダルを発生し続けているわけでもない。タレント・松田聖子のナチュラルな価値が今こそ評価されているというのだ。
『日刊ゲンダイ』(10月29日付)は最近の松田聖子についてこう書いている。
まず、聖子は11月22日からクリスマスまで恒例のディナーショーを全国12カ所で全27ステージ開催する。このチケットは1席4万~4万6000円と高額ながら飛ぶように売れている。
 すでに完売したステージも多数。12月23、24、25日のクリスマスにディナーショーを開催するホテルニューオータニ大阪では「聖子さんのディナーショーは毎年大好評。ホテルで一番広い750席ある会場で催されます。23日と24日はすでに完売。25日も残りの席数はヒトケタです」(広報担当)とうれしい悲鳴を上げている。

 聖子はクリスマスだけで1日3300万円、3日で約1億円を稼ぎ出す計算だからスゴい。

 フジフイルム、山崎パン、サントリーのCMも好評。11月には竹内まりやがプロデュースした新曲「特別な恋人」もリリースと、勢いが止まらない。

 だが、それだけではない。年明けからはNHK大河「平清盛」に祇園女御という平安時代の歌姫役で登場。第1話から主人公の松山ケンイチと共演する重要な役どころだ。

 そして、囁かれているのが大晦日のNHK紅白への出場だ。聖子は01年に出場したのが最後。しかし、今年は大河ドラマのPRを兼ねて、出場が有力視されている。

この人気、「基礎票」としてはもちろん当時のファンがいる。

松田聖子がアイドルとして全盛だった80年代といえば、もっともアイドルが仕事をしやすかった時期だ。歌番組も多かった。ネット配信はなかったからCDも売れた。グラドルだの、ひな壇タレントだのもいなかったし、それらを使う番組もなかったので、歌に、芝居に、バラエティにと仕事にも幅があった。

その分商売敵のライバルも多かったが、それは見方を変えれば、商品の相対化ができるわけだから、逆説的に言えば自分の個性がより明確にされるわけで、そういう意味では、あの時代は、いったん軌道に乗ったタレントたちにとっては実においしい「黄金時代」だったと思う。

そうした全盛期にしびれた当時のファンのニーズとともに、芸能界が、また松田聖子を必要としているということだろう。

いま、歌やドラマで活躍する女性タレントはあまた存在するが、一枚看板で使える人材がどれだけいるのか。

たとえば、研究本、暴露本を作ったとして、爆発的に売れるだけのパワーを持った女性タレントはいない。

もちろん、ネット時代だから本が売れにくい、ということはあるだろうが、それだけでなく、そのタレントが素材として面白いか、という「ヒューマンインタレスト」として、ワクワクして来るようなタレントはいない。

芸能界は改めて論じるまでもなくスターシステムの世界である。ではスタートは何か。ヒューマンインタレストに尽きる。それがない「巨乳」も「スキャンダル」も商品としての価値は半減である。

全盛時は毀誉褒貶のあった松田聖子だが、少なくとも本物のタレントであったということである。

増補版 松田聖子論 (朝日文庫)

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  • 作者: 小倉千加子
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2012/09/07
  • メディア: 文庫