入川保則が、8月いっぱいの余命を宣告された末期がんでありながら、9月も現役の俳優として仕事をしていることが話題になっている。

報道によっては、余命を超えた活躍ぶりについて、まるで医学常識を書き換えたかのような文言もあるが、それはどうだろうか。
まずはニュースから引用しよう。
末期がん入川保則、医学常識超えた!余命8月いっぱいが年越せる デイリースポーツ 9月23日(金)7時31分配信

 末期がんに侵されている俳優・入川保則(71)が22日、都内で最後の主演映画「ビターコーヒーライフ」(公開時期未定)のクランクアップ会見を行い、8月いっぱいと宣告されていた余命について「検診で“年越しますよ”と言われた」と明かした。主治医も驚くほどに進行が遅れており、現在は飲酒できるほど体調は安定。医学の常識を超えた入川は、「こうなったら映画の切符を自分で売りますんで、香典代わりに買って下さい」と最期まで俳優人生を全うする構えをみせていた。

 「主治医の先生から『こんなに進行の遅いがんは見たことない』と言われました。年は越えそうだということです」‐。「遺作」という最後の主演作品で、自身の現状と重ね合わさる、余命いくばくもない喫茶店のマスター役を演じ終えた入川の身には、医師も驚く変化が起こっていた。

 今年3月にがんを告白した時点で、「余命は、8月いっぱいの半年間」と宣告された。一切の延命治療を拒否しているにもかかわらず、病状は酒を飲めるほどに安定し、余命半年間を宣告した医師も新年を迎えられると口にした。

 がん告白以降、映画主演、ドラマのゲスト出演、歌手デビュー、執筆と、芸歴55年の中で最も仕事をこなしたことが、気力の充実につながった。医師は「データ的には死んでてもおかしくないんです。やっぱり免疫力が上がったんでしょうね」と医学の領域を超えた生に目を丸くし、入川は「ちゃらんぽらんに生きてるとがんもどうしていいか困るみたいですね」と目を細めた。

 命に感謝する一方、身の回りの整理を終えていただけに問題も浮上した。夏前に冬服を処分したばかりか、住んでいるアパートが11月で建て替えすることになり、転居しなくてはならなくなった。「11月にはもう逝ってると思ってたので…。先生に頼み込んで12月からは入院させてもらいます」と、苦笑いを浮かべるしかなかった。

 死後に出版予定の著書「自主葬のすすめ」も書き上げ、今後は「映画の切符を売りますよ」と遺作のために力を注ぐ構え。会見の最後にも「私が生きていても、生きていなくても映画をご覧下さい」ときっちりとPRしていた。

先日亡くなった竹脇無我主演のテレビドラマ『だいこんの花』で、竹脇の勤務先である出版社の先輩役を演じていたのが入川保則、編集長役が金子信雄だった。

入川保則も金子信雄も悪役のイメージが強かったので、彼らも「いい人」キャラに変えてしまうホームドラマってすごいな、などと思いながら当時ドラマを見ていた。

それはともかくとして、最近は医師の誤診や見込み違いに対する世間の目が厳しいので、医師は「余命」をどちらかというと少なめに言う。

だから、入川保則に限らず、「8月まで」といわれていながら、実際に年内生きることはあり得る。

それどころか、抗がん剤を使えばもっと延命できる可能性もある。ただし、抗がん剤の副作用で入川保則のように元気に仕事はできないだろうから、むずかしいところだ。

いずれにしても、この状態が2年、3年と続けばまた評価も変わってくるかもしれないが、「8月」といわれて9月まで生きていたことで、「医学常識超えた!」というタイトルは大げさではないだろうか。

こういう例があると、すぐに「がん治療など効果はない」「抗がん剤をするくらいなら余命を楽しく生きたほうがいい」と、医学の成果を清算主義的に否定する意見が出てくるが、価値観としてならともかく、医学の評価につなげるべきではない。

がんというのは生易しい病気ではない。

現代医学をいっさいやめたとして、全体のがんを通して約50~60%といわれる治癒・寛解率が、下がることはあっても上がることはない。

入川保則は70歳を過ぎた「末期」だからこのような生き方を選択できたわけで、若い人の初期のがんで同じことは勧められない。

このことをもって、現在の医学・医療を否定するのはいかがなものだろうか。

これは決して「医学常識」云々という話ではなく、死ぬまで現役でいよう、がんでも前向きに生きよう、という入川保則個人の生き方や価値観を評価すればそれでいいのではないだろうか。

その時は、笑ってさよなら ~俳優・入川保則 余命半年の生き方~

その時は、笑ってさよなら ~俳優・入川保則 余命半年の生き方~

  • 作者: 入川 保則
  • 出版社/メーカー: ワニブックス
  • 発売日: 2011/06/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)