肺がんの話である。肺がんといえば、実はがんの中で最も多いものである。古谷一行が肺の悪性腫瘍(肺がん)で仕事を休むことになり、話題になっている。そんな中、肺がんのX線検診で死亡率は低下しない、という調査結果が報じられた。これがまた話題になっているのだ。
11月27日更新の朝日コムから、話題の元になっているニュースを引用しよう。
肺がんX線検診で死亡率低下せず 米で15万人調査
 年に1度、X線による肺がん検診を受けても、死亡率低下にはつながらないとする大規模調査の結果を、米国立がん研究所などがまとめた。国際的に肺がん検診を実施している国はほとんどないが、日本では国が年に1度の肺がん検診を自治体に勧めている。科学的根拠がはっきりしない検診を続けるべきかどうか、議論となりそうだ。

 論文は26日付の米医師会雑誌(JAMA)電子版に発表された。

 55~74歳の約15万人を対象に、半数は4年間連続でX線検診を受けた人、半数は何も受けなかった人に無作為に分けて、肺がんによる死亡との関係を13年間、追跡調査した。

こういう調査結果が出ると、「X線検診」による早期発見を根本から否定して、近藤誠氏の「がんもどき」理論はやはり正しかった、とまで言い出す人がいるかもしれないが、そう単純なものではない。

新たな発見のように見える発表だが、おそらく多くの医学者や医師は、「ふ~ん」で終わってしまうニュースではないだろうか。

医学情報というのは読み方が難しい。

まず、「年に1度の肺がん検診」にエビデンスがないといっているが、「年に1度の肺がん検診」の調査をしたからといって、「肺がん検診」全体を否定することはできないだろう。もしかしたら、「半年に1度の検診」なら有効かもしれないではないか。

いや、決して揚げ足を取っているのではない。医師の中には、実際にそう(半年検診説)主張する人もいる。

がんは闇雲に検査してもうまく発見できるわけではないが、その検査の間隔をどうするかについては、肺がんに限らず議論がある。

また、喫煙や食生活や生活環境で肺のダメージが全く異なるので、今回がランダムの調査だからといって、いや、だからこそ、「肺がん検診」についての結論にはならない。

つまり、喫煙をしている人としていない人、煙や油の出る飲食店に長く勤務している人とそうでない人、といった因子によるわけ方をして調べないと、肺がんについて言えば本当の「エビデンス」は明らかにならない。

さらに、肺がんの診断がついても、がんの性質によって、必ずしも治療が奏功しない場合もあるが、それはがんの悪性度の問題であり、「X線検診」そのものの評価にダイレクトに結びつけるものではない。

「X線検診」自体は、「がんを見つける」だけである。死亡率は治療による責任もあるわけだから、「X線検診」と「死亡率」をダイレクトに結びつけてその有効性を語ろうとすること自体論理的ではない。

健康食品の業者ならともかく、やはりがん治療の原則は、通常の三大療法にかなうものはないし、スピードや悪性度はいろいろあれど、細胞が無限に増殖するという点では共通しており、それを断ち切るには早期発見という原則をまっこうから否定することもできない。

新聞やテレビがこうしたニュースを報じることは否定しないし、こうした調査研究を行うことも構わないが、一般に報じる場合には、そうした解説をつけるべきではないだろうか。

健康情報・本当の話

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  • 作者: 草野 直樹
  • 出版社/メーカー: 楽工社
  • 発売日: 2008/05
  • メディア: 単行本