メニューの中には、必ずヨーグルトが

牛乳を飲んで白血病になる、という説がにわかに取り沙汰されている。どういうことか。大塚範一キャスターの急性リンパ性白血病発症、糖尿病に悩む鳴戸親方の急死、さらに今秋発売の『週刊女性』では子役出身の斉藤こず恵が甲状腺がん告白など、重い病気のニュースと、その予防や早期発見に関する記事がスポーツ紙や週刊誌に並んでいる。
とりわけ、大塚範一キャスターの場合は健康に人一倍気を使っていたのに発病した、ということでその衝撃度や悲壮さが際立っている。

芸能人の白血病はしばしば報じられる。夏目雅子、本多美奈子。、彼女の同級生でやはりアイドルだった菊池陽子、渡辺謙、市川団十郎、吉井玲、カンニング中島忠幸……。一部をのぞけば臓器がんよりも深刻で、治療も厳しい。

メディアの一部では、今回の原発事故による放射性物質を原因のひとつと疑う記事もあったが、それは可能性として限りなくゼロに近いだろう。

「健康に人一倍気を使う」事自体がストレスになり、逆に健康に悪影響を及ぼしたのかもしれないが、そのひとつとして大塚範一キャスターの規則正しい食生活がメディアでは紹介された。

メニューの中には、必ずヨーグルトが入っていたという。

ヨーグルトは、生乳から作られる。

ネットでは、白血病牛由来の牛乳を飲んで白血病がうつらないか、という話がいつまでも疑われている。
チンパンジーに白血病牛の生乳を飲ませたら白血病になった、という話が出所らしい(筆者はその本をまだ読んでいない)

ということは、ヨーグルトが白血病の原因に?

昔、中日ー阪神ー中日と渡り歩いた大豊泰昭という野球選手がいたが、大豊泰昭は現役時代、牛乳を水代わりに飲んだのは有名な話だ。

大豊泰昭さんは引退後、飲食店を成功して大きくさせたが、これからというときに、急性骨髄性白血病になってしまった。現在は寛解するも、飲食店事業の方は縮小せざるを得なくなったという。

そうなると、その説は“火のないところに煙はたたず”なのか?

ヨーグルトだけではない。生クリーム、ケーキ、チョコといった牛乳を原材料とするものはみな心配になってしまうではないか。

が、結論を述べればおそらくそれはないだろうと思われる。

牛の乳由来の白血病は、原因がはっきりしている。乳が血液由来であることは人間も牛も同じだが、乳の中にリンパ球に感染するレトロウイルスが含まれている。ウイルスを持った牛の乳を飲んだ子牛に感染するのだ。

ただし、このウイルスは宿主を選ぶため、牛のレトロウイルスが人のリンパ球に感染することはない、という前提があるから、「感染の危険性」は医学的に議論のしようがない。

人には、ヒト成人T細胞というものがそれにあたる。

ヒト成人T細胞感染自体はもともと西日本地方に限定されていたものの、最近は関東在住者にも増えていると話題になってはいる。が、その原因は地域性と母子(母乳)感染で説明が付き、牛乳がたくさんの人に飲まれているから、という因子が考慮される余地は医学的にない。

ただ、BSEが「種の壁」をぶち破って人がプリオン病を発症したように、牛のレトロウィルスが人に絶対に感染しないとはいいきれないのではないか、という不安もある。

かりに「種の壁」がぶち破られるものとしたらどうか。それでも、感染の可能性はきわめて低いのではないだろうか。

チンパンジーが飲んだのは、絞りたての生乳だが、私たちが市販の牛乳や乳製品でそれを口にする事はありえない。

私たちが飲む牛乳は超高温瞬間殺菌といって、130度で2秒殺菌する。そして、その前に85度の段階で5分間予備加熱をする。つまり、生乳が牛乳になるにあたって、殺菌は2段階にわたって行われている。

よく、乳製品の原材料に、牛乳ではなく「生乳使用」と書かれている場合があるが、あれは生乳がそのまま製品になったわけではない。殺菌工程のない乳製品はあり得ない。

つまり、あれらもおおもとが生乳だというだけで、使っているのは牛乳なのである。

ここで、もし万が一ウイルスが奇跡的に残っても、乳製品は長く冷凍される。冷凍も宿主殺しに有効とされる。お菓子などに使われれば、さらに温度が動き、また卵や砂糖など他の材料に混ぜられてしまう。

血液中のウイルスは、血液の中でこそ生きられるのである。お菓子になったら生き残れない。

また、量の問題もある。このウイルスは、微量でも直ちに感染、というほど強いものではないようだ。

たとえば、ヒトの成人T細胞感染は母子間感染率が20%。断乳が原則だが、授乳を強く希望する場合には「3ヵ月以内の短期授乳」を指導されている。授乳が絶対ダメというわけではないというのは、直ちに感染するわけでもないということだろう。

言い換えれば、3か月以上長期間連続摂取にして本格的なリスクがあり、5人に1人「だけ」感染するとも解釈できる。

ダメ押しだが、牛乳に白血病のウイルスがいたとして、そもそも「感染生乳」由来の牛乳を毎日繰り返し飲むことはあるだろうか。

乳製品はいろいろあるが、そのすべてが同じ生乳由来というわけではないだろう。

もちろん、ヒトのウィルスよりも牛のウイルスの方がずっと生命力も強く、感染や発症もしやすい特性を持っている、ということなら話しは別だが、そういう話は聞いたことがない。

もっとも、白血病云々は別として、牛乳は人間の体によくない、ということを主張する人たちはいる。

ただ、もともと病気というのは、交絡因子が複合的に影響することで発症するものだ。
もし牛乳に、人間の体を傷害する何かがあったとしても、たとえば動物性タンパクが体の調子を悪くするとか、その仕組みは複雑なものであり、牛乳を飲んだ→○○病になった、という単純なものでないことだけは確かだ。

健康情報・本当の話

健康情報・本当の話

  • 作者: 草野 直樹
  • 出版社/メーカー: 楽工社
  • 発売日: 2008/05
  • メディア: 単行本