球団私物化を許してはならない

清武英利・巨人軍球団代表兼ゼネラルマネジャー(GM)の記者会見が話題になっている。代表権のない渡辺恒雄球団会長が、内定していた岡崎郁ヘッドコーチに代わって江川卓氏にしたがったことついて、「球団私物化を許してはならない」などと文部科学省で批判の声明。
それに対して渡辺恒雄球団会長が、翌日になって「非常識で悪質なデマゴギー」などと反論する長文コメントを発表。さらに清武英利GMも再反論のコメントを発表した。
ネットでは、かねてから目立っていた球団会長という大権力を批判したことから、「よく言った!」の賞賛や「ナベツネ悪玉論」による盛り上がりもあるが、スポーツ紙、夕刊紙ではおおむね清武英利GMに対して見方が冷ややかである。中には「自爆テロ」などという表現もあった。

ひとつには、しょせん球団内の人事なのだから「内紛」に過ぎないのに、記者会見形式で世間を味方につけて自分の意見を通そうとした清武英利GMのやり方がフェアではないということが批判されている。

また、清武英利GMの評判はそれまでにも決してよくはなく、「私物化」してきた渡辺恒雄球団会長の後ろ盾で球団を牛耳ってきたという批判もある。だから、「会長による私物化」批判は、まさに「猶天を仰ぎて唾するがごとし。唾天を汚さず、還って己が身を汚す」ことになるという指摘も少なくない。

さらに、今回は自分がGMとして結果を出せなかったことが原因で起こった話。さすれば、「会長独裁論」の前に自己批判を行うべきだった、岡崎コーチ降格を言い出したのは渡辺恒雄球団会長かもしれないが、原因を作ったのは清武英利GM自身ではないか、というスジ論もある。

あとは単純に、どちらについたほうが得策か。真のオーナーと、雇われ代表、どっちもどっちなら、より力のあるほうについたほうがいいという打算も各紙にははたらいたかもしれない。

清武英利GMが指摘したように、渡辺恒雄球団会長が「聞いてない」と言ったことは第三者にも確認できたことであるし、その点は桃井オーナーも否定していないから、「ナベツネが勝手にひっくり返した」という話は本当なのだろう。岡崎郁コーチの話も事実なら理不尽だ。

巨人という球団の「紳士たれなど糞食らえ」が実態の理不尽さや前近代的なやり方を暴露するという点では、今回の清武英利GMの話は面白かった。無責任に面白がるだけなら、清武英利GM暴露万歳でいいかもしれない。

ただ、見識を働かせて考えるとそればかりでは一面的であると思う。

今回は契約前のことであるし、土壇場で話が変わることは善し悪しは別として現実にないわけではない。もっと極端に言えば、当事者が合意すれば契約してから(何らかの埋め合わせでも決めて)白紙に戻すことだってあり得るだろう。それは、そうなったときに岡崎郁コーチがどうするか考えることであり、清武英利GMが江川卓氏という「部外者」の名前まで挙げて世間に問うことはではないと思う。

社員の内部告発か、ジャーナリストか、その時々でいろいろだが、世の中は、暴露によって真実が明かされる。暴露という行為それ自体を否定してはならないと思う。

ただし、暴露しているその姿が社会的に必ずしも適当であるかどうかはわからない。
それは、また別の話だろう。
だから、清武英利GMの暴露がいくら楽しくても、清武英利GMの批判を手控える必要は全くない。
是々非々で見ておけばいい。

暴露している人は勇気を奮って頑張っているのだから、批判など大目に見よう、という立場を筆者は取らない。
それは言論に対する甘えであるし、暴露を精緻に評価することもできなくなるからだ。。

法に触れれば逮捕されても仕方ない。識者から批判の論陣をはられても仕方ない。
それでも正しいと思ったら頑張る。
正義が勝つのは時間がかかり、また多くの犠牲を払うものなのだ。

清武英利GMが今後、きちんと時間をかけ犠牲を払って批判的立場を貫き通すのか。渡辺恒雄球団会長の報復とともに見届けてやろうではないか。

巨魁

巨魁

  • 作者: 清武 英利
  • 出版社/メーカー: ワック
  • 発売日: 2012/03/16
  • メディア: 単行本