女性は「女性特有の」保険に入るべきかという話である。6月23日、厚生労働省サイトでは「女性特有のがん検診推進事業について」というコンテンツに関する記事がいくつか追加された。乳がん、子宮がんなど、女性特有のがん対策の推進や実施に関する情報である。
「女性専用の医療保険」という市場
女性の平均寿命は男性よりが長い。
が、乳がん、子宮がん、卵巣のう腫、子宮内膜症、子宮外妊娠、流産、乳腺症など、男性にはなかったり、ほとんど罹患する可能性がなかったりする女性特有の疾病もある。
だから、厚生労働省がそうした疾病の早期発見や治療に取り組むこと自体は悪いことではない。
が、行政が進歩しても後退しても、保険会社はそれをテコに新しい商品を売る、ということを私たちはスケプティクスに認識しておかなければならない。
昨今、保険会社によって、女性特有の病気やアクシデントを保障する「女性専用の医療保険」という市場もできつつある。
いわゆる女性用保険といわれるものだ。
筆者は、損保の世界も生保の世界も知らないわけではないが(というか元本職なのだが)、保険商品そのものは「生活の中の理性と非合理」というテーマとは直接関係ないので、商品の種類や保険の内容はここでは書かない。
ただ、「女性は一般に『一家の大黒柱』ではなく、男性ほど高額な死亡保障を必要としないから、その浮いた保険料を、こうした女性特有の病気に対する保障にあてよう」というセールストークが女性用保険の販売に使われていることについては、一言しておきたい。
女性にとって、女性特有の病気を面倒みてくれる保険といわれると、さぞや有り難みを感じることだろう。
だが、ちょっとスケプティクスな立場から考えて欲しい。
女性特有疾病だけを手厚くする根拠はない
乳房や子宮などのがんを含む疾病はたしかに女性にとって気をつけなければならないものだが、女性がかかる病気はそれだけではない。
国立がんセンターの統計によれば、2004年にがんで死亡した女性12万7259例のうち、もっとも死亡者が多かったのは胃がんで、以下肺がん、結腸がん、肝臓がんで、5位にやっと「女性特有の」乳房がんが入っている。
罹患者数は1位が乳房がん、以下胃がん、結腸がん、子宮がん、肺がんの順だが、結腸と直腸を合われば大腸がんがもっとも多くなる。
決して子宮がんや乳がんや膣がんなど女性特有のがんばかりが、女性の死因上位を独占しているわけではないのだ。
「女性特有の」がんというのは、そのがんについては女性だけ、もしくは圧倒的に女性が多いというだけのことで、全女性の罹患から考えると、必ずしも第一義的に「女性特有の」がんを注意しなければならないということではない。
そもそも、女性特有であろうがなかろうが、病気に対する医療費負担に違いがあるわけではない。
胃がんだろうが乳がんだろうが、通常治療の自己負担(3割)、高額医療制度なども平等だ。支払う医療費が、「女性特有の」病気がそれ以外のものに比べて高くなるというわけではない。
つまり、女性特有の疾病に対する保障だけを手厚くする根拠はない。
一般的ながん罹患のリスクに対応するなら、全てのがんを対象とする「がん保険」に入った方が保障としては優れている。
入院保障を中心とする医療保険も、各社が販売しているありふれたもので「女性特有の病気」も面倒見てくれる。
まあ、保険というのは「安心料」ともいうし、人それぞれの生活事情や価値観によって選択されるべきものでもある。
たとえば、一族にそうした疾患が多く遺伝するかも、という心配から「女性特有の」がんをとくに気をつけたいという場合には、こうした保険も必要であろう。がんだけではなく女性特有の疾病や生活のリスクについて重点的な保障を望むニーズは否定できないから、ただちに「女性用保険は要らない」ということにはならない。
しかし、「女性特有の」という点をあまり強調することは、かりに保険会社の側に悪意がなかったとしても、女性の加入者が選択を誤りかねない表現ではあると思う。
物事はスケプティクスに考えたいものだ。
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