『ゆうひが丘の総理大臣』といえば漫画を原作としながらもほぼオリジナル化した中村雅俊の代表作。『青春ド真中!』が終了したクールから放送開始されました。両作品は設定や出演者が似ているので混同される方もおられますが似て非なるドラマと言えます。
『青春ド真中!』は過渡期のドラマ
放送された順に見ていきましょう。
『青春ド真中!』(1978年5月7日~9月24日、ユニオン映画/NTV)は、同枠前作の『俺たちの祭』の不振打ち切りを受けて急遽制作されたといわれるドラマです。
内容は『ゆうひが丘の総理大臣』の前倒しともいわれ、学園ドラマであったり、主要な教師、生徒に重複のキャスティングがあったり、BGMが『ゆうひが丘の総理大臣』に流用されたりしています。
ただし、よく見ると、それまで同枠で放送されていた青春学園ドラマと『青春ド真中!』には、異なるところと似ているところがあり、また同様に『青春ド真中!』と『ゆうひが丘の総理大臣』にも、似ているところと異なるところがあります。
その意味で、同枠で放送されていた青春学園ドラマと、『ゆうひが丘の総理大臣』の過渡的な作品が『青春ド真中!』といえるのではないでしょうか。
では、どこが似ていてどこが違うのか、具体的に見ていきましょう。
〇〇青春、青春ド真中!、ゆうひが丘の総理大臣の比較
まずは表で
比較項目 | 旧来の〇〇青春 | 青春ド真中! | ゆうひが丘の総理大臣 |
日曜日に放送 | ○ | ○ | × |
「青春」がタイトルに入っている | ○ | ○ | × |
運動部で活躍 | ○ | × | × |
外国帰りの英語教師 | ○ | ○ | ○ |
教頭が悪役で腰巾着付き | ○ | ○ | ○ |
優等生と劣等生 | ○ | ○ | ○ |
主人公は下宿住まい | ○ | ○ | ○ |
マドンナ教師は優等生 | ○ | ○ | ○ |
水曜日に放送 | × | × | ○ |
主人公は家庭的に不遇 | ー | △ | ○ |
同僚の人間関係が描かれている | × | × | ○ |
比較郡は大きく3つあります。
ひとつは、『青春とはなんだ』から、『われら青春』までの、日曜8時枠で放送された、熱血教師による青春学園ドラマ、次が『青春ド真中!』、そして『ゆうひが丘の総理大臣』です。
ゆうひが丘の総理大臣は水曜8時の放送
前半は、旧来の青春学園ドラマの視点で見ていきます。
まず、放送の曜日です。
これは、旧来の〇〇青春と、青春ド真中!が日曜8時で、ゆうひが丘の総理大臣は水曜8時でした。
放送時間(枠)は、視聴者のターゲットが基本同じですから、ドラマも同じような舞台やモチーフになることが多いでしょう。
しかし、水曜8時といえば、あの石立鉄男主演のドラマシリーズが放送されていた枠ですから、学園モノではないのです。
何よりも、これが決定的という気がします。
つまり、ゆうひが丘の総理大臣は、少なくとも学園生活を眼目としたドラマではないのです。
ゆうひが丘の総理大臣は「青春」がタイトルにはいらない
次に、「青春」という文字がタイトルに入っているかどうかですが、これはもう見ればすぐにわかります。
ゆうひが丘の総理大臣のみが、入っていません。
つまり、従来の青春ドラマとも違う、ということです。
中村雅俊は運動部で活躍しない
旧来の〇〇青春は、中村雅俊主演の『われら青春』を含めて、サッカーやラグビーの部活動が舞台になっていました。
しかし、青春ド真中!とゆうひが丘の総理大臣は、部活ではなく、日常生活からドラマツルギーを見出しています。
外国帰りの英語教師は不変
『青春とはなんだ』の 野々村健介(夏木陽介)は、アメリカ帰りのネイティブ英語教師でした。
例外は、社会科教師だった浜畑賢吉の『進め!青春』(1968年10月20日~1968年12月29日、東宝/NTV)だけです。
青春ド真中!とゆうひが丘の総理大臣も、外国ぐらしをしています。
教頭が悪役で腰巾着付き
学園を舞台にするドラマでは、悪役が学内にいます。
これはもう、夏目漱石の『坊っちゃん』以来の伝統です。
こちらは、例外はありません。
生徒は劣等生を中心に必ず優等生も
生徒は、基本的に「落ちこぼれ」です。
ドラマとしては、その方が面白いから。
ただ、正反対の優等生も必ず入っていました。
よく考えると、落ちこぼれの学校が舞台のはずなのに、どうしてそんなに優秀な生徒がいるの? と思うこともありましたけどね。
主人公は下宿住まい
これも、『進め!青春』以外はすべて下宿住まいです。
『進め!青春』は、シリーズで唯一、打ち切りになった作品ですが、やはり青春学園ドラマの“お約束”から外れすぎたのかもしれません。
マドンナ教師は優等生
主人公の教師が型破りであることを表現するために、まじめな建前重視の女性教師も必ず登場します。
表には書きませんでしたが、『飛び出せ青春』の酒井和歌子は理事長(佐藤慶)の姪、『われら青春』の島田陽子は杉田校長(有島一郎)の姪、『ゆうひが丘の総理大臣』の由美かおるは京塚昌子園長の姪です。
大岩雄二郎は不幸な星のもとだった
〇〇青春は、熱血教師という設定でしたが、それがどのような生き様で構築されたのか、また出自や育った環境はどのような関係があるのか、つまりどんな親でどんな家族だったかということは全く明らかにされていません。
『われら青春』と『青春ド真中!』では、どうも親の縁はうすいらしいことが描かれていますが、それが主人公の行動原理とどうつながっているかはとくに描かれていません。
それに比べて、『ゆうひが丘の総理大臣』の大岩雄二郎は、母子家庭の上に母親に捨てられ、さらに養護施設では妹だけが別の家庭に養女として引き取られる気の毒なほしのもとで、それゆえに寂しいことは嫌いという陰翳あるキャラクターとして描かれました。
学園ドラマではない人間ドラマ
ゆうひが丘の総理大臣は、そうした大岩雄二郎の強烈なキャラクターで、時には大野木念(神田正輝)と齟齬をきたしたり、東郷教頭(宍戸錠)や井伊加(小松政夫)と衝突したり、名古屋章と篠ひろ子の親子関係に干渉したりします。
つまり、学園というのは主人公の職場、すまわち生活のワンオブゼムであり、生徒だけでなく教師という立場とは直接関係ない同僚との葛藤やぶつかり合いが描かれています。
そのキャラクターは、『俺たちの旅』の津村浩介の教師版という面はあるかもしれません。
『ゆうひが丘の総理大臣』VS『青春ド真中!』まとめ
『青春ド真中!』は、従来の『〇〇青春』のエッセンスを引き継ぎながらも、そこに中村雅俊らしい教師像で一部お色直しをしました。
そして、『ゆうひが丘の総理大臣』は、放送枠の異なり、カースケ版教師の人間ドラマとして独自のモチーフで制作されました。
以上、『ゆうひが丘の総理大臣』はその前に放送された『青春ド真中!』と似ているという声もあるが実は似て非なるドラマという件、でした。
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