新型インフルエンザのリスクが話題になっている。来る日も来る日も、新型インフルエンザで亡くなったのは何人目という報道にマスコミは熱心だ。相変わらず、「リスク=ハザード×確率」なのに、確率を検証しない「リスク」の演出に熱中している。
まるでBSE報道のよう
新型インフルエンザ・ワクチンの報道を聞いていると、何頭目の感染牛が出た、というかつてのBSE報道を思い出す。
交通事故死や他の病死は、日常的にもっとたくさん出ているはずだが、有名人や事件性のあるものぐらいしか報じられない。
インフルエンザだけが特別らしい。
だから、恐怖感を刷り込まれた人々がワクチン接種を希望して病院に殺到する。
だが、接種希望者は、ワクチンの現実をきちんと理解してから受けているのだろうか。
漠然と、「受けておけば”あの恐ろしい”新型にかからずにすむのではないか」と思っている人が多いのではないか。もしくは、マスコミの報道で、世間の動きから乗り遅れたくないという気持ちにさせられているのか。
季節性インフルエンザワクチンの場合、比較的頻度が高い副反応としては、接種した部位(局所)の発赤(赤み)・腫脹(腫れ)、疼痛(痛み)などがあげられる。
全身性の反応としては、発熱、頭痛、悪寒(寒気)、倦怠感(だるさ)などが見られる。
ワクチンを受ける受けないはその人の価値判断だが、いずれにしても、以下の話も参考にして欲しい。
すでに厚労省も認めているが、昨年春の筆者の聞き取りでは、
インフルエンザ・ワクチンは感染自体を防ぐことはできない
ということがはっきりしている。
ではワクチン接種の大義は何か。
インフルエンザワクチンならびに新型インフルエンザワクチンは、インフルエンザ罹患時に重症化を防ぐ効果があるとされている。
何を以て重症化というのか。
熱が38度だったが、予防接種していなければ40度出たかもしれない、などという宗教信仰者の御利益後説のような話では困るのだ。
たとえば、肺炎やインフルエンザ脳症などの合併症を防ぐ効果はどの程度あるのか。
ワクチンの有効性やリスクも含め、新型インフルエンザワクチンを製造しているメーカー2社に質問してみた。
ワクチンを製造会社に質問
現時点で、有名な医科大系列のメーカーは無回答。1社から回答(電話)があった。
まず季節性のインフルエンザワクチンについて伺った。
「発症を防ぐ予防効果」は、子供よりも成人(20?64歳)のほうが高く80%。
6歳以下の子供はぐっと低くなり30%程度という。
重症化(入院、死亡)を防ぐ効果については、65歳以上の高齢者で死亡を防ぐ効果が80%。
成人、子供についてはともに不明ということだった。
これは、筆者が昨年春、厚労省に尋ねた内容と全く同じ回答である。
だが、その限りでは
入院につながるような合併症、肺炎やインフルエンザ脳症などは、ワクチンによる予防効果があるのかないのかわからない
ということになる。
ではなぜ、それでも重症化を防ぐと言われるのか。
メーカー側の説明をそのままご紹介する。
「インフルエンザにかからなければ重症化もしない。発症を防ぐ効果は子供でも30%認められるので、これはすなわち重症化を防ぐ効果と言ってもいい」
微妙な言い回しである。
もし、抗がん剤の奏功率が「30%」なら、医療現場はともかく、患者側は物足りない数字と思うだろう。
それは、奏功しない場合から考えるからだ。
インフルエンザも同じで、このメーカーの説明は言い方をかえると、「3人に2人は重症化を防げない」ということである。マスコミはそういう表現は決してしない。
厚生労働省が一般に公表している「新型インフルエンザワクチンQ&A」にも、インフルエンザワクチンは「重症化を防ぐ効果や発症を防ぐ効果が期待されている」とある。
筆者はこれを、「発症を防ぐ効果あるいは発症しても重症化を防ぐ効果が期待できる」と読みかえていたが、ただしくは「発症を防ぐ効果は期待できるが、重症化を防ぐ効果は保証されていない」ということになる。
しかも発症を防ぐ効果も子供の場合は30%。
インフルエンザ・ワクチンだってリスクがないわけではない。
毎年4~5千万人接種している中で、副反応の報告は100件程度。うち死亡例が2件。この死亡例についてはいずれも高齢者で持病を持っており、死亡原因をワクチンと特定することは難しいが、
持病を持っている人はワクチン接種の際は注意が必要
とのことだ。
だいたい、「副反応」と一口にまとめているが、ここの中身も色々あると思う。
結果的に亡くならなかった、というだけで、高熱が続き、家族が肝を冷やしたケースだってあったのではないか。
筆者も、あるワクチンの副反応で熱が出た経験があるので、その点が気になる。
次に、今回注目の新型インフルエンザワクチンについて伺ったが、こちらは十分な臨床試験が済んでいないため、効果もリスクも現時点では不明。ただし、季節型インフルエンザと同程度の効果は期待できるだろうという回答だった。
聞き取りに答えてくれた人の結論としては
「慌てて接種しないほうがいいですよ。臨床データが十分に集まってからでも遅くない。インフルエンザにかかってもタミフルなどの薬でしっかり対応できますから」
現在は、先行して接種した医療従事者のデータが集まりつつあるところなので、データ分析はこれからなのだという。だから、みんなが接種した後の反応を見た上で考えればよい、というのだ。
慌てているワクチン接種者はモルモットか……
と、ここまで書いたところで、これを読んだ一部のおバカさんは、
筆者に「ワクチン否定派」と勝手にレッテルを貼り、ワクチンのメリットとされることをこれでもか、これでもかと洪水のように並べ、筆者をトンデモ扱いして悦に入ることだろう。
昨年、インフルエンザワクチンに反対する人の著書レビューを「ヤフーニュース」で紹介しただけで、狂ったような「反論」コメントが書き連ねられたが、ワクチンのデメリット自体を事実に基づいて否定したものはひとつもなかった。
要するに「反論」は、自分の価値判断(ワクチン接種はすべき)に懐疑的なものは一切許さない、という言葉の暴力に過ぎなかった。
医療関係者でもない筆者が、肯定も否定もないのだ。
もとより、価値の問題に、科学と価値の両立を主張する筆者が受けろとか受けるなとか押しつけるはずがないだろう。
ただ、この問題は科学と価値の問題に、メディアが干渉するという、きわめてスケプティクス的テーマであることは間違いない。
いずれにしても、事実と道理に基づいた情報を提供することが必要であると考えている。
首を傾げるインフルエンザ対策
そもそも、国のインフルエンザ対策にも疑問がある。
妊婦と授乳中の母親に向けた、新型インフルエンザ対策のパンフレットが厚生労働省のサイトに公開されたと報道されたので、ちょっと目を通してみた。
パンフレットの作成には、妊婦や出産・母乳育児関連グループのメンバーも参加したということなので、当事者ならではの視点が盛り込まれているのかと思ったのだが、特に目新しいことが書いてあるわけではない。
インフルエンザ対策として
・手洗い、うがいの習慣化
・人混みを避ける
・ワクチンの接種
・抗インフルエンザ薬の服用(かかったら)
をあげており、これまでさんざん言われてきたことと同じだ。
まあ、よりわかりやすく、具体的な提案が盛り込まれている点がちょっと違うかなという印象である。
たとえば、授乳中の母親がインフルエンザにかかってしまったら、次の3つの条件をクリアしてから授乳したほうがよいとしている。
1.抗インフルエンザ薬を2日間以上服用している
2.熱が下がって平熱となっている
3.せきや鼻水がほとんどない
つまり、インフルエンザの症状がほとんどなくなってからにしましょう、ということ。
当たり前といえば当たり前だ。
ではインフルエンザ真っ最中の場合はどうすればいいのか。
「やむを得ず直接授乳する場合は、シャワーを浴びて清潔な服に着替え、マスクを着用するなどして、できるだけ感染の危険が低い状態で授乳」するように、だそうだ。
しかし、そのケースを真面目に想像すると非現実的である。
高熱でフラフラしているときにシャワー?
しかも授乳なんて一日に何回もあるわけで、そのたびにシャワーするのだろうか?
それでは治るものも治らなくなってしまいそうだ。
さらに、「新型インフルエンザのワクチンは重症化を予防します」と言い切ったり(ここにエビデンスはない)、授乳中の抗インフルエンザ薬の服用について、製薬会社の説明書には授乳を避けると記載されているのに、欧米では授乳の継続は可能と書かれていたり、ちょっとお粗末すぎるのではないだろうか。
以上、新型インフルエンザのリスクが話題になっている。来る日も来る日も、新型インフルエンザで亡くなったのは何人目という報道、でした。
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