エコフィードと豚肉の問題について述べたい。エコフィードとは、食品リサイクルによる資源の有効利用として、食品残さ等を利用して製造された飼料である。つまり、豚から豚肉を取り、その残渣を別の豚に食べさせ、またその豚肉を食するというシステムである。
エコフィード自体は、食品リサイクルとしてだけでなく、飼料自給率の向上等を図る上で重要な取り組みと評価する向きがある。
しかし、スケプティクス(懐疑者)としての立場で考えると、いかがなものだろうかという懸念もある。
コンビニも導入したが懸念の声もある
農林水産省の資料(平成24年11月発表)は、エコフィードについての統計を発表している。
平成21年度において、食品産業から排出された食品残さは2270万トン程度。
そのうち66%の約1500万トンが再生利用され、さらにそのうちの74パーセント(全体の約50パーセント)が飼料として利用されているという。
コンビニの、時間切れ食品を飼料として再利用することが、我が国でも法(食品リサイクル法)的に後押しされた。
セブン‐イレブンが、店舗で期限切れとなった廃棄食品を養鶏に使い、生産した鶏卵をチルド弁当に活用し始めたことはすでに報じられている。

アメリカのトウモロコシがエタノールの原料に使われ、豚の飼料の約半分を占めているトウモロコシの価格が高騰しているため、エコフィードの利用を考えている養豚家もいるという。
しかし、エコフィードには懸念の声もある。
先の『牛乳は体に悪いのか』(宝島社)では、リサイクル飼料としてエコフィードの問題にも言及している。
コンビニ食品に多用される残渣豚肉を豚が食べれば「ともぐい」になり、BSEの二の舞になりやしないか、と心配する向きがあると書いている。
さしあたって、エコフィードには「焼却の際の有害物質排出」や、「腐敗」「異物」「塩分・脂肪分」「食品添加物」などの混入問題が取り沙汰されているが、こんにちそれらがクリアになったという話は聞かない。
たとえば、異物は手作業で処理しているようだが、本格利用するならそんなことではダメだろう。
筆者はこの件で、養豚協会関係者に話を聞いてみた。関係者某氏はこうコメントしている。
「現実にエコフィード飼料を使うと思われる農家は、コンビニの残渣食品、パン工場等から出る製品を作る際に出る端切れ等が主流になるので、都市部に近いところ或いはパン工場等に近いところの農家が利用できる状況に過ぎません」
そうだろうか。
残飯はそのまま食べさせるのではなく乾燥粉砕の後、バッケージ化された商品として販売されてもいるのだから、いずれは全国の養豚家に普及していくだろう。
中には、リサイクル飼料だからといって特別な物と思うのはおかしい、という意見もある。
ただ、いずれにしても“未知の物”で上記のような懸念や問題点が指摘されている以上、エコフィードについては情報を正直に公開した上で安全性を確認し、消費者の判断を尊重する、という手続きは必要だろう。
この問題の背景にある、「まだ食べられるものを廃棄している」ことや、「食糧自給率が低い」といったことは措こう。
今回は、先の鶏卵と木酢液の調査同様、作り手・売り手側の情報公開に絞って調べてみることを筆者は思い立った。
学会やメーカーから調査
まずは、養豚関連の農学系某学会に、養豚業者のリサイクル飼料使用状況を尋ねた。
だが、回答は「知的財産」にかかわるので簡単に教えられないとのことだった。
その一方で、筆者の質問はホームページに載せたいと宣ったので、筆者の質問も筆者の「知的財産」であるから勝手に載せるなとかたくお断りした(笑)
それはもう、お互い様だろう。
同学会の目的は、養豚技術の普及や振興にあるというが、消費者に対する宣伝や啓蒙活動を行いながらから合意形成を得ることなしにそれを目指しても、真の発展はあり得ないだろう。
エコフィードが話題に上りつつある昨今こそ、世間の関心の一歩先を行く情報の公開と解説を進んで行うべきではないのか。
ハム・ソーセージ業者に限定して問い合わせた
一消費者が自力で調査するといってもできることには限りがある。
いきなり全国の養豚業者全てをしらみつぶしに調べることは、「普通の人」である筆者には不可能である。
ブランド精肉が市場にどれぐらいあるのか、さらにそれはどこの養豚場からのものかを調べるのも途方もない作業であり無理だろう。
たとえば、大手スーパーなどにも卸されている「あじわい麦豚」は、ニッポンハム系のブランド豚肉だが、同社がどこの契約農家の豚を使っているかは、同社担当部署から書類でも盗み出さない限りわからない。
ただし、函館カールレイモン、鎌倉ハム富岡商会、ヘルマン等の肉製品製販一体業者が、材料としてそれを使っていることはわかった。
そこで、養豚や精肉の段階では無理でも、商品(肉製品)になったものから原材料である豚肉のリサイクル飼料使用状態を確認すればいいのではないかと考えた。
豚肉由来の商品は多様だが、ひとまずは自社ブランドのハム・ソーセージといった肉製品を製造・販売している大手・中堅30社について問い合わせてみた。
ハム・ソーセージ業者30社の回答はどうだったか
結論から書いてしまおう。
一切使用せずは17社
「食品残渣は一切使用していない」と明確に回答したのは17社だった。
そのうちの8社は、具体的に配合飼料の中身も教えてくれた。
養豚から販売まで自社で行うか、指定企業だけでまかなっているところは、飼育の履歴がはっきりしている。
Aハムでは、「指定農場との提携によって飼料も自分たちから指定。
農場ではもちろんリサイクル飼料は不使用。
配合飼料には遺伝子組換え農産物の配合もなし」とすぐに回答してくれた。
次に述べるように、養豚と製造が単なる取引関係の別企業である場合、製造業者が養豚業者の飼育実態まで把握できていないこともある。
養豚・製造・販売一体型の業者は、その点で情報が得やすい面がある。
一部不明は7社
リサイクル飼料を使用しているかどうかが「一部不明」だったのは7社ある。
これらは、原材料の豚肉を複数の業者から卸しているケースだ。
たとえば、そこに輸入豚肉が含まれると「飼育履歴を追跡できない」(Bハム)という。
ただ、彼らによれば「輸入の場合は、大規模パッカー企業が多く、飼料も自社で生産・配合するところが多いと思われる(主に加工用は、デンマーク・カナダ産が多い)」(Cハム)という。
もっとも、中には国内業者から卸しているのに「データなし」(Dファーム)「現在飼料等の規格書は保存していない」(Eハム)というケースもある。
「原料肉の80パーセントを占める生産者の豚に関しては確認がとれるが、他の肉は、地元生産者の豚肉を市場にて購入の為、リサイクル飼料を使用しているか否を特定するのは困難。
時節柄、原料肉納入業者には、その点について飼料規格書をお願いする」(Eハム)
最後の一文は、今回の筆者の質問が背中を押したのだろうか。
「(特定困難の部分は)使用が一部に限られることから、エコフィード使用はほとんどないと推測」(Fハム)というのは業界大手業者の言い分だ。
もし今後普及が進めば、その「推測」は見直さなければならなくなるだろう。
一部使用は2社
一方、「一部使用している」のは2社である。
「取引先が排出した残飯を飼料にした豚肉を原料とした、その取引先専用のギフト製品を製造」(Gハム)
「10年以上前から肥育用飼料として一部使用」(Hハム)
さらに、現時点で調査中との回答が4社だった。
全面的エコフィードは1社もなし
要するに、全面的にエコフィード由来豚肉を使っていると回答したハム・ソーセージ業者は1社もなかったことになる。
彼らによると、現在「使えない」とする理由は次の通りだ。
「徹底した防疫管理と最新の飼養技術に則った飼育を行おうとすると、現在のリサイクル飼料はコストも安全性も問題がある」(Iハム)
「(リサイクルは)悪いことではないと思うが、高脂肪飼料では肉質も落ちるしメリットがなくコストもかかるとなれば使う意味がない」(Jハム)
ただ、回答を見ると、部分的な使用は「2社」だけでなくプラスアルファはあると思われる。
それが今後急激に増えていくかどうかは、筆者は専門家ではないのでわからない。
大切なのは情報公開と積極的調査
いずれにしても大事なことは情報を公開することだ。
科学的認識の啓蒙は、国民の納得と信頼を得た所から始まる。
事業者は消費者との信頼関係を大事にして欲しい。
消費者も、気になることがあったら筆者のように可能な範囲で調べてみることをお勧めする。
今はインターネットもあるし、対面のヒアリングでなければ情報を得られないわけではない。
こうして調べることで、飼育・卸し肉の実態や業者の考え方を知ることができるだけでも収穫はある。
自分の知らない世界を知るというのは楽しいことだ。
今回は数がまとまらなかったので発表しなかったが、とんかつやステーキ、餃子や焼売、焼き豚等の業者についても筆者は調べている(凝り性)。
前回ご紹介したように、業者によっては、ニッポンハムのようにブランド豚肉を売っている所もある。
肉製品だけではなく、精肉業者も可能なら調べてみたいと思っている。
それにしても、30社調べてシカトがゼロというのは、予想以上の回収率だった。
各社には改めて感謝したい。
それに比べて、一応学術の側にある関連学会の対応は残念である。
このことに限らず、国民側と研究者側の垣根を研究者側から取り除こうとしないかぎり、科学や技術に対する国民の信頼を獲得することはできないだろう。
以上、エコフィードは食品リサイクルによる資源の有効利用として注目されているがBSEの二の舞ではないかとの懸念も、はここまで。
コメント