『ガス人間第1号』(1960年、東宝)は、土屋嘉男さん演じるガス人間と八千草薫さん演じる日本舞踊の家元・藤千代の悲恋を描いた特撮アクション映画です。本多猪四郎(本編)円谷英二(特撮)という2人の監督によって作られました。
『ガス人間第1号』のあらすじ
『ガス人間第1号』は、文字通り、この世で初めて誕生させられたガス人間の悲しい人生を描いたものです。
土屋嘉男は、パイロットになれなかった青年を、応募者の個人情報を入手した博士が自分の実験材料にして、いつでもガス状になることのできるガス人間にされてしまった役を演じました。
ガス人間にさせられてしまった男の恋
冒頭から銀行強盗のシーンで映画は始まります。
犯人は、吉祥寺・富田銀行の課長を殺害して逃走。
岡本賢治警部補(三橋達也)は、パトカーで必死に追跡しますが、五日市街道にある日本舞踊の家元・藤千代(八千草薫)の家の近くて見失います。
見失うのは当然で、ガス人間(土屋嘉男)がガスになって逃亡してしまったのです。
藤千代(八千草薫)は、老人鼓師(左卜全)と稽古中でした。
誰も来なかったといいます。
警部補(三橋達也)には、東都新報社会部記者・甲野京子(佐多契子)という恋人がいます。
お互いの職業上、協力しあったり、秘匿しなければならないことを探り合ったりしていますが、京子はさっそく藤千代の取材に走ります。
《ガス人間第1号》(1960)…八千草薫 pic.twitter.com/b1eGLJauew
— BON (@1632bdkrst) March 15, 2018
銀行強盗は東海銀行でも起こり、行員の死因は血管に未知の気体の詰った窒息死でした。
一方、八千草薫の金回りが急に良くなりました。
強奪された紙幣と藤千代の使った紙幣が一致したため、三橋達也は八千草薫を逮捕します。
すると、今度は大森銀行で事件が起こり、図書館に勤める土屋嘉男が、犯人は八千草薫ではなく自分だと名乗りを上げました。
そして、犯行を再現すると言い、体が白いガスに変わったり、銀行の支配人(宮田洋容)を窒息死させたりしました。
だったらそこで逮捕すればいいわけですが、ガス人間はその時もガスになって逃げてしまいました。
さらにガス人間は、東都新報編集長(松村達雄)のインタビューを受け、自分が人体実験の失敗によって、いつでもガス状になることのできるガス人間にされてしまったのだと話しました。
犯行宣言をした犯罪者が、普通にインタビューを受けるのは奇妙に見えるかもしれませんが、当時はそういうことがたしかにありました。
ガス人間は、図書館で出会ってから藤千代に夢中になり、スポンサーになっていたのです。
件の金も、土屋嘉男は「田舎の土地を売った金だ」と言って藤千代に渡したのです。
一人の男性として惹かれたということもあるし、自己実現を挫折したばかりか、ガス人間にさせられてしまった自分にとって、八千草薫はどうしても成功してほしい人だったのです。
釈放された藤干代は発表会を準備しますが、さすがに銀行強盗とわかったら金は受け取れません。
しかし、ガス人間は藤干代に、「君のすばらしい舞台を世間に認めさせてやりたいんだ」と訴え、藤千代はガス人間の気持ちを受け入れることにします。
壮絶な最期
警察では、田端警部(田島義文)が、発表会に現われるに違いないガス人間を会場ごと爆破させなければガス人間を殺すことはできない、生かしたままでは、ずっと捕まえることはできない、と決断。発表会のチケットを買い占めて爆破の準備を整えました。
当日、ガスを充満させて、発火装置にスイッチを入れれば爆破できるまでになりましたが、ガス人間はぬかりなく、発火装置のコードを切断していました。
そして演目が終わり、抱き合う藤千代とガス人間。そのとき、ガス人間の死角である彼の背中で藤千代はライターで発火。
一瞬にして会場は燃え上がり、さすがのガス人間も最期となります。

『ガス人間第1号』より
壮絶なストーリーです。
特撮映画でありながら本格的な大人のストーリー
私にとって観る度に感動を新たにする名作『ガス人間第1号』。土屋嘉男さんが去り、今度は八千草薫さんが……
名画座で二回観賞したことがありますが、上映後二回とも劇場内から拍手が沸き起こりました。
八千草薫さん、ありがとうございました。ご冥福をお祈りします。 pic.twitter.com/JjdiKLhVRK
— AndroMEGA (@AndroMEGA18) October 28, 2019
「上映後二回とも劇場内から拍手が沸き起こりました」というのは素晴らしいですね。
私の経験では、『男はつらいよ』の渥美清が若い頃、長い啖呵売のセリフを一気に言ったとき、拍手が起こったことがありました。
いずれにしても、役者冥利に尽きますね。
映画館の雰囲気がわかります。
音楽家や芸事は、本来お金がかかるものです。
活動するためには、スポンサー、女の人の場合には「ダンナ」がいる場合があります。
そんな立場でありながら、「ダンナ」を超えて、いつしかフツーの愛に昇華した家元の苦悩を描いたのではないでしょうか。
特撮映画でありながら、これほど本格的な大人のストーリーを構成したということ自体が、この作品の特徴なのかな、というのが私の結論です。
特撮映画は、特撮そのものがセールスポイントですから、人間関係や相克など心理描写にフォーカスするよりは、その特撮によるファンタスティックな世界やストーリー展開を強調するものです。
一方、同作はあくまでも人間の心を描いたということなのでしょう。
もらい泣きしたり、しんみり余韻を残したり、手に汗を握ったり、といったインパクトがあるわけではありませんが、90分かけて鑑賞するのは惜しくない作品であると思います。
以上、『ガス人間第1号』(1960年、東宝)は土屋嘉男さん演じるガス人間と八千草薫さん演じる日本舞踊の家元・藤千代の悲恋を描いた、でした。
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