ガン医療のスキマ30の可能性ー大病院はなぜか教えてくれない(伊丹仁朗著、三五館)は、さじを投げられたがん患者の活路を見出すとする書籍だ。進行がんの人々に、なんとか元気で長生きしてもらう方法はないのかと著者が模索した方法を述べている。
『ガン医療のスキマ30の可能性ー大病院はなぜか教えてくれない』は、伊丹仁朗さんが三五館から上梓した書籍である。
現在の標準治療で、打つ手無しとなった進行がんの患者をなんとか救えないか、と活路を見出すべく様々な提案を行っている。
気持ちは大いに理解できるが、それはいきおい、エビデンスがなかったり、ときにはインチキ健康商法として批判されていたりするものへのアプローチも含まれるため、その点については懐疑や批判の指摘は行わざるをえない。
スケプティクスな立場からはそう述べざるを得ないが、そういってしまえば身も蓋もないか。
日本のガン医療は『キセル型』という
ガンの治療といえば、手術、化学療法(抗がん剤)、放射線の三大療法が代表的だ。
それらはこのステージ(病気の進度)でこの治療を行う(行えない)という治療プロトコルに基づいて行われる。
つまり、身も蓋もない言い方をすれば、三大療法で治療できれば治療する。
そうでなければどうにもならない、というのが今の医療現場である。
『ガン医療のスキマ30の可能性』(三五館)で、著者の伊丹仁朗医師は、この現実から「日本のガン医療は『キセル型』」と指摘する。
キセルは両端が金属だが、途中が竹筒になっている。「キセル乗車」などという例えもあるように、途中がない状態に用いられるが、著者に言わせると、我が国の医療は初期治療と終末医療だけで、再発予防や再発治療が「ガランドウになっている」というのだ。
そこで同書は、その竹筒の再発予防の健康法がしっかり行われれば、より後ろの再発治療や終末医療に至る人々が大幅に少なくなるとして30の方法を開陳。
著者はそれを「ガンの多角的基本療法」、名付けて「ソラリア(太陽)療法」と呼んでいる。
がんの多角的基本療法というが……
「ソラリア(太陽)療法」の原則は次の5点という。
- ガンに対する作用の異なる方法をなるべく多く組み合わせて用いること
- なるべく早く開始し、できるだけ長く続けること
- 副作用がほとんどない方法であること
- 科学的裏付けのあること
- 比較的安価であること
「30」の中には、たしかに「多角的基本療法」として積極的な意味を持つものがある。
たとえば、PET検査の重要性やハイパーサーミア(局所温熱療法)、ピロリ菌除菌などを紹介している。
これらは条件付きだが保険が使える。万能ではないが、今までの検査や治療を助けるものになる。まさに「スキマ」として知っておいた方がいいことである。
ガンマナイフやサイバーナイフ、重粒子療法なども紹介されている。
これらはどんなガンにでも適応というものではないが、やはり知っておいた方がいい治療法である。
ビスホスホネート製剤(骨粗鬆症の特効薬)が骨転移に効くから個人輸入、イレッサやサリドマイドの見直し、胃薬のタガメット(シメチジン)をガン転移防止に利用といった件は、医師や医学者によって見解は分かれるかもしれないし、副作用にも配慮しなければならない。
しかし、スケプティクスに考えて、これらも慎重に推移を見ながらも導入が可能なら価値はあるのではないだろうか。
ホスピスへの提言や内気功の勧めも、一医師としての見解としては受け止めることができる。
しかし、著者が推奨している「スキマ」には、いかがわしいものや、そうでなくとも著者の「原則」に反するものが入っているので注意が必要だ。
原則に反する
たとえば、同書の最初に出てくる「免疫ドック」は自由診療でしか行われていない。
ということは効果に疑問符が付くと共に費用もかさむということだ。
それは、著者がいう「ソラリア療法の原則」の4と5に反する。
終盤に出てくる「活性水素」は、自殺した元大臣が流行させた「ナントカ還元水」を構成する物質であるとされている。
九州大学の白畑實隆教授らが、酸化作用が強い活性酸素を還元して消滅させる活性水素という物質が水の中に存在していると主張しているが、これはまだ白畑教授らの仮説に過ぎず、現在でも活性水素(原子状水素)の存在はまだ実証されていない。
にもかかわらず、還元水器メーカーの間ではこの言葉が一人歩きし、大仰な効果をうたう怪しい物が出回っていると疑似科学を批判する科学者たちからは指摘されている。
一部の胃薬がガン治療に貢献する成分が入っているかも知れない、という情報はいいのだが、ドサクサに紛れてその中で「サメの軟骨」を紹介しているのはいただけない。
1998年にアメリカで報告された60人の進行がん患者を対象としたサメの軟骨の臨床試験では、一部に病状安定は見られたものの、腫瘍の縮小や消失は認められなかった。
2002年に腎細胞がんを対象とした第二相臨床試験では、高容量(40ml)摂取で「生存予後に関して利益をもたらす可能性がある」と報告されたが、2005年には、乳がんと大腸がんの進行がん患者に対して生存率とQOLの向上について調べたものの、有効性は示されなかった。
少なくとも、サメの軟骨が進行がんに効くというエビデンスはない。
いかがわしい裏技本ならともかく、これらは現役医師が紹介すべきものではないだろう。
また、患者の食事についても触れられているが、これも様々な見解が出ており、また患者の食べる量にもよりけりなため一概にはいえない。間違いではないが書き方に慎重さが必要なところである。
現場の医師が、有用な情報を提供したり、自らの体験を紹介したりすることは、患者でなくとも頼もしいと感じる。だからこそ、似非療法、疑似科学の類は排除する厳格さが欲しい。
残念ながら、その点で同書には疑問符が付く。
本当に有用・有望な情報もあるだけに残念だ。
以上、ガン医療のスキマ30の可能性ー大病院はなぜか教えてくれない(伊丹仁朗著、三五館)は、さじを投げられたがん患者の活路を見出す、でした。
付記
『ガン医療のスキマ30の可能性』(伊丹仁朗著、三五館)は、その後改訂版の『絶対あきらめないガン治療・30の可能性―もっと知りたい“医療のスキマ”』が上梓されている。
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