ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)という新しいがん放射線治療法は、正常細胞にあまり損傷を与えず腫瘍細胞のみを選択的に破壊する治療法として注目されている。『日刊ゲンダイ』(2016年1月20日付)で国立がん研究センター中央病院放射線治療科長が解説する。
国立がん研究センター中央病院放射線治療科長の伊丹純医師が語っているのは、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)が、「正常細胞と混在するがん細胞もピンポイント攻撃」するということ。
そして、「早ければ来年度にも首都圏で臨床試験スタート」と書かれている。
ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)は、がん治療の一種であり、ホウ素を含む化合物を患者に投与して、がん細胞内に集積させる。
次に、中性子線をがん細胞に照射し、ホウ素原子が中性子を捕捉することで、ホウ素原子が崩壊し、その過程でがん細胞に高エネルギーのアルファ粒子を放出す。
これにより、がん細胞が破壊されることが期待される。
BNCTは、がん治療において、従来の放射線療法や化学療法に比べて、健康な組織に与える影響が少なく、がん細胞の選択性が高いという利点がある。
しかし、中性子線を生成するためには、高速中性子を発生させるための高価な施設が必要であり、実施が困難な場合がある。
BNCTは、現在は限られたがん治療施設でしか実施されておらず、まだ臨床試験の段階にある。
しかし、今後、BNCTががん治療の有望な選択肢としてさらに研究されることが期待される。
ということをお含みの上、いつものように、スケプティクス(懐疑的)な眼を忘れずにこの話題を見ていこう。
ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)とは何か
『日刊ゲンダイ』(2016年1月20日付)は、「手術に代わるがん根治療法として期待されるがん放射線治療法に、新たな『武器』が加わりそうだ」という、冒頭からかなり期待を込めた書き方をしている。
ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)といっても、一般の人には何のことやらさっぱりわからない。
ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)を簡単に述べると、がん細胞に取り込まれやすい特定の“ホウ素”化合物を体内に注入して、中性子を照射。
がん細胞の中でホウ素と中性子を衝突することで生じる重粒子線が、がん細胞を死滅させるものである。
侵襲性の高い従来の放射線治療(陽子線・重粒子線含む)は、がん細胞だけでなく、正常な細胞も傷めつけてしまう問題があった。
十分に照射が行われていなくても、周囲の異常に耐えられなくなり、治療を中止することもあった。
しかし、今回のホウ素中性子捕捉療法(BNCT)は、原子炉等から発生する中性子と、それに増感効果のあるホウ素との反応を利用し、正常細胞にあまり損傷を与えず、腫瘍細胞のみを選択的に破壊する治療法である。
具体的なステップは3段階あるといわれている。
Step.1
がん患者の体内にホウ素-10を含んだ化合物を投与。がん細胞にホウ素-10化合物を集積させる。
Step.2
中性子を患部に照射し、がん細胞に到達させる
Step.3
中性子とホウ素-10の衝突により、アルファ線(α線)が生成され、がん細胞を死滅させる
中性子はエネルギーが低く、しかも、重粒子が飛ぶ距離が少ないから、正常細胞への侵襲性がきわめて少ないのだ。
かつ、従来の放射線治療は、少しずつ数日照射するものだが、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)は、1度の照射で治療が完了するという。
つまり、体にも懐にも優しい治療というわけだ。
ネックとしては、先に「原子炉等から発生する中性子」と書いたとおり、医療用原子炉が少なく、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)には、核燃料のある原子炉施設との関わりが懸案となっていた。
それが、「加速器」を用いた中性子源の開発が進められたことで、一般の医療機関にも導入が可能となったという。
現時点では、悪性脳腫瘍、悪性黒色腫、頭頚部腫瘍、肝臓がんなどに適応があると言われている。
がん治療に新たな選択肢が加わる
詳しい記事は、以下のとおりとなっている。
BNCTは、従来の放射線治療のように「体の外側から?線、重粒子線、陽子線といった高いエネルギーを持った粒子を直接、がん細胞にぶつけて死滅させる」ものではない。そのため、照射にはエネルギーが低い中性子が使われ、ターゲットとなるがん細胞に到達するまでの正常細胞を傷つけるリスクも少ないという。
「しかも、がん細胞の内部で生じる重粒子が飛ぶ距離はわずか10訂?ほど。これは細胞1個分に過ぎません。つまり、この治療法はがん細胞に隣接する正常細胞に影響が出る恐れの低い治療法なのです」
その効果は、すでに国内で数百例行われた臨床研究で実証済み。従来の治貯法では治療が困難だった悪性脳腫瘍や悪性黒色腫などが、数十分の照射1回で消えたケースがいくつも報告されているという。
ただし、中性子線は体の中に入ると、体内の水素原子などに当たりながらエネルギーを失い、体の表面から9?ほどで3分の1以下になる。それ以下になると治療に必要な線量を得られないため、現在の適用は、悪性脳腫醇や頭頚部がん、悪性黒色腰、舌がん、口腔がん、耳下腺がんなど、体表に近いがんに限られている。
実はこの治療法の研究は昭和40年代から京大を中心に進められてきた。なぜいままで普及しなかったのか。
「がん細胞に照射する中性子を作り出すには、当初は原子炉が必要だったためです。その設備を持つ研究機関の数が限られていて、臨床数が十分ではなく、どんながん患者ざんに効果があるのか、その適応がハッキリしなかったのです。ところが最近、医療用の加速器が開発されました。今後は私どもを含めてより多くの施設で臨床データを蓄積し、実用化するにあたってのルール作りを行うことになります。また、現在、使われているホウ素化合物にはアミノ酸が使用されており、正常細胞にも微量ながら蓄積される。今後はこれも改善されるでしょう」
いいことずくめのように聞こえるが、がんの放射線治療というと、重粒子線治原に代表されるように巨大施設と莫大な費用が必要なイメージがある。にもかかわらず、前立腺がんのように他の治療法に対する優越性を示せないのではないか、という疑問は残る。
「RNCTの施設費用は、重粒子線や陽子線などの放射線治療施設ほど巨額にはならないのではないかと考えています。最近は、効果のある抗がん剤が次々発売されていますが、抗がん剤は基本的にずっと飲み続けなければならず、その薬剤費を合算すると莫大です。しかし、BNCTなら1回の治療で済む。がん患者のフトコロにも優しいのではないか」
ホウ素化合物投与後にPET検査することで、より効果的な治療も行える。
いずれにせよ、がん治療に新たな選択肢が加わるのは喜ばしいこと。今後の動きに注目だ。
(『日刊ゲンダイ』(2016年1月20日付)より)
もっとも、「新しい放射線治療」は、かつてこのブログで、トモセラピーと、ガンマナイフを調べたが、まだまだ期待だけで、「新しい治療」と断言できるほど医療現場で効果を発揮しているものではなかった。
今回も、「早ければ来年度」に「首都圏で臨床試験」だから、健康保険が適用されて、最低でも地域の大学病院なら誰でも受けられる、という段階に行き着くまではまだまだ先のようである。
それでも、新しい研究があればこそ、明日のがん治療にも希望が持てる。
ぜひ、この新たながん放射線治療法には期待したいものである。
以上、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)という新しいがん放射線治療法は、正常細胞にあまり損傷を与えず腫瘍細胞のみを選択的に破壊する、でした。
コメント