『天下のおやじ』(1974年4月3日~1974年9月25日、国際放映/NTV)は木下恵介作『破れ太鼓』を原作とした長門勇主演、妻役を草笛光子が演じたテレビドラマです。裸一貫から努力と度胸と知恵によって一代で建設会社を成したブルドーザー社長を描いています。
『天下のおやじ』は『おやじ太鼓』のリメイク
『天下のおやじ』は、当時『日本テレビ水曜8時枠連続ドラマ』として放送されました。
裸一貫から、努力と度胸と知恵によって一代で建設会社を成したブルドーザー社長を描いています。
原作は、木下恵介の『破れ太鼓』で、木下恵介アワーで人気ドラマだった進藤英太郎主演の『おやじ太鼓』(1968年1月16日~10月8日、松竹/TBS)のリメイクとして作られました。
主演は長門勇です。
このブログ記事を書いている6月5日は、長門勇さん(ながといさむ、1932年1月1日~2013年6月4日)の命日です。
昭和40年代ではめずらしかった、関西弁や東北弁以外の方言である岡山弁を番組で使い、主に哀愁ある喜劇調の役どころをつとめました。
中でも、今回ご紹介する『天下のおやじ』の雷オヤジは代表作と言っていいでしょう。
リメイクと書きましたが、全く同じストーリーが描かれたわけではありません。
進藤英太郎主演の『おやじ太鼓』は、ワンマンなカミナリオヤジ鶴亀次郎を、妻・愛子(風見章子)が上手にコントロールしながら一家が繁栄する展開でした。
一方、長門勇版の『天下のおやじ』は、一代で建設会社を大きくした雷オヤジという設定は変わらないのですが、子供達はそんな雷ぶりにはツイてこずに、少しずつ離れていくというところに力点が置かれた描き方です。
これは、時代背景もあると思います。
高度経済成長といわれ、特定の名前のついた一定期間の不況以外は、GDPの二桁成長を続けていた時代が進藤英太郎主演の『おやじ太鼓』の時代でした。
それに対して、長門勇版の『天下のおやじ』は、1973年のオイルショックのあとで、すでに右肩上がり幻想がくずれ、「地震、雷、火事、親父」が怖いものの代名詞ではなくなりつつあった時期です。
戦後、オヤジが家長として振る舞う家制度から家族制度に民法が変わり、その時点で家父長という言葉は否定されることとなりました。
しかし、その教育を受けてきた世代が社会の中心を担ううちは、なかなか人々の“常識”としてその考えが浸透しなかったのですが、家族制度ができてから以降の世代の人々が婚姻して家庭をもつようになったのが、ちょうど長門勇版『天下のおやじ』が放送される頃だったのです。
そうした点からも、カミナリオヤジ終焉という社会背景を反映したドラマづくりになり、それは東映の悪役出身の進藤英太郎よりは、愛嬌と哀愁ある長門勇の方が適役だったということでしょう。
『天下のおやじ』あらすじ
『天下のおやじ』は、おやじが長門勇、妻が草笛光子。
子供達は、進藤英太郎主演の『おやじ太鼓』よりも2人減って5人です。
寺尾聡、水谷豊、葵テルヨシ、武原英子、小柳冴子でした。
先に述べたように、時代はすでに家父長として君臨するオヤジの雷はいささか空回り気味。
全17回のドラマ中、はやくも第2回でお手伝いさん(正司照枝)がやめてしまいます。
そして、長女の武原英子は渡辺篤史と結婚し、寺尾聰はホーン・ユキと結婚。
子どもたちもどんどん巣立っていきます。
長門勇の哀愁のオヤジを描いたのは、第14回の『父に捧げるバラード』(1974年8月14日)です。
末息子の葵テルヨシが、おやじの後を継がずに音楽の道に進むことに反対する長門勇に対して、寺尾聰、水谷豊、葵テルヨシの子どもたちが一計を案じ、葵テルヨシの歌をきかせます。
なにか言葉を発したら、罰金1万円という賭けをしようという取り決めで。
葵テルヨシは、「うちのオヤジはいつも、カレーライスを食べている」に始まって、父親に対する思いを歌い、長門勇を泣かせ、好きな道に進むことを承諾させます。
おもわず、「お父さん(ありがとう)」と言葉を発した寺尾聰と水谷豊に、長門勇は「金を出せ」とばかりに手を差し出します。
顔を見合わせる、寺尾聰と水谷豊。
長門勇は、二人の唇を指し、指を一本たて、再び「お金をくれ」というポーズでにっこり。
これは、哀愁と愛嬌が備わった長門勇だからこその、圧巻のシーンでした。
ところで、寺尾聰と水谷豊はともかく、葵テルヨシは、聞き慣れない、もしくは懐かしい名前かもしれません。
葵テルヨシは、当時ジャニーズ事務所期待のタレントで、葵という芸名にはジャニー喜多川による深い意味が込められていました。
『おやじ太鼓』では、ジャニーズ事務所出身のあおい輝彦が出演してテーマソングも歌っており、それを模す意図がもしかしたらあったのかもしれません。
それにしても、草笛光子は、この仕事の前は『ありがとう』に出演しており、坂上忍を抱えるシングルマザーでした。
急に子どもたちが大きくなりましたが、当時の出演者のギャラを公開した週刊誌によると、社長シリーズなどでビッグネームとなっている草笛光子のギャラがもっとも高く、1回100万円。
主演の長門勇は、それに対して40万円と記載されていました。
その意味で長門勇の起用は、コストパフォーマンスの高いキャスティングだったと思います。
以上、『天下のおやじ』(1974年4月3日~1974年9月25日、国際放映/NTV)は木下恵介作『破れ太鼓』が原作の長門勇主演ドラマ、でした。
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