食のフェイクニュースでよく見るのが「添加物が悪い。無添加がよい」という論法。自然だ、オーガニックだ、無農薬だとかまびすしい。しかし、自然のものは毒性物質を含むというのが“食の常識”だ。悪いものと良いものの情報には十分気をつけよう。
食品添加物は、本来食材にはないものを、食品としての体裁を整えるために使う。
一時期は、発がん性を含む毒性が指摘される添加物も使い放題だった。
それゆえ、とにかく悪いものという見方がされてしまうのだが、たとえば保存料は必ずしも悪いわけではない。
まずはっきりさせておくと、食品添加物には、食品衛生法に基づき「成分規格」や「使用基準」が決められている。
食品添加物に有害な物質が含まれていると、健康に害を起こすことがあり得るため、添加物を指定する際には、個別にその成分として規格が決められている。
「成分規格」といわれるもので、もちろん、これくらいなら大丈夫だろうという量を決められている。
法律により、この規格に合わない食品添加物を使用したり、販売したりすることはできない。
指定された添加物は、安全性試験や有効性評価の結果に基づいて、その使用の基準が決められている。
食品添加物の安全性試験には、
- 28日間反復投与毒性試験
- 90日間反復投与毒性試験
- 1年間反復投与毒性試験
- 繁殖試験
- 催奇形性試験
- 発がん性試験
- 抗原性試験
- 変異原性試験
- 一般薬理試験
- 体内動態試験
実験動物に28日間繰り返し与えて生じる毒性調査。
実験動物に90日間繰り返し与えて生じる毒性調査。
実験動物に1年以上の長期間にわたって与えて生じる毒性調査。
実験動物に二世代にわたって与え、生殖機能や新生児の成育に及ぼす影響調査。
実験動物の妊娠中の母体に与え、胎児の発生・発育に及ぼす影響調査。
実験動物にほぼ一生涯にわたって与え、発がん性の有無調査。
実験動物でアレルギーの有無調査。
細胞の遺伝子や染色体への影響調査。
薬理作用の試験では、例えば、中枢神経系や自律神経系に及ぼす影響や、消化酵素の活性を阻害し実験動物の成長を妨げる性質の有無など調査。
体内での吸収・分布・代謝・排泄など、体内に入った物質が生体内でどうなるか調査。
ということを踏まえた上で、以下をご覧いただきたい。
即席めんは「ゆでた湯を捨てる」か?
さる2月13日、プロが指摘する「食べてはいけない」ものとして、即席めんは「ゆでた湯を捨てる」と記事に記され、ツイッターで多くの人に叩かれている。
即席めんは「ゆでた湯を捨てる」 プロが指摘する「食べてはいけない」もの (1/3) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット) https://t.co/82Rd7EnOQI これ、科学的にどうよ
— スケプティクス豚 (@butacorome) December 9, 2020
もとの記事には、即席めんを作るとき、「麺をゆでた湯を捨てる。そうすると油の7割ぐらいはカットできます」と書かれている。
即席麺は、油であげて水分を飛ばしてい.が、その油が体にわるいというのである。
しかし、「なら最初から食べなければいいのでは?」とツッコミが入っている。
開発者側は、当然その油分も含めてスープの味を設計しているからである。
私もよく、このブログで、即席麺も菓子パンも、その他おやつもご紹介しているが、油の量で言うならカレーライス、クロワッサン、あげパンなどの方が、実は即席麺よりもずっと多いのである。
こうした「食の安全」には、危機を煽る側に、往々にして科学的根拠が怪しいものがあるので、「批判の批判」が必ずフォロー役に登場するパターンが常となっている。
ツッコミどころに満ちていた
たとえば、この記事がそれにあたる。
食のフェイクニュースに惑わされるな?週刊朝日の記事をじっくり検証してみた https://t.co/o0y0E16ofu @waki1711より
— スケプティクス豚 (@butacorome) December 9, 2020
この著者、松永和紀氏が指摘している「食のフェイクニュース」の内容について、主なものを抜粋する。
- 電子レンジで、たんぱく質は変性する……変性は煮ても焼いても同じ。電子レンジだから特別の変性をするわけではない
- 食べ物は精製するとよくない……逆に黒砂糖は精製しないことで、不純物を取りきれなかったり、甘い美味しさが劣ったりする。精製しないから「ミネラル豊富」といわれるが、野菜や牛乳、肉等から摂れる量に比べれば、ごくごくわずか←「不純物」には、アクリルアミドのような発がん物質も含まれる
- 原形が見えるのがよい(練り物等加工食品はダメ)……加工度が低いと今度は食中毒のリスクがある
- トランス脂肪酸は問題……日本人のトランス脂肪酸摂取率はアメリカ人の7分の1。トランス脂肪酸を減らそうとすると飽和脂肪酸の含有量が多くなり、日本人はむしろそちらが問題視されている。
- 添加物は単品調査の安全性ばかりで複合的な影響が検討されていない……虚偽。検討されている
いずれにしても、こうしたフェイクニュースに共通している思想は、「添加物は悪。自然最高」という思想である。
しかし、本当にそうだろうか。
ちょっと、立ち止まって冷静に考えてほしい。
自然のものだから逆に怖いという場合もあるのではないか。
簡単に言えば、分析・研究が行われ、リスクの少ない適量が決められている「化学で作ったもの」と、得体の知れない「自然のもの」では、実は後者の方がずっとリスキーだ、ということがある。
自然のものだから怖かった
たとえば、以前もご紹介した木酢液である。

木酢液というのは、木炭や竹炭を製造する際に発生する、煙の成分を冷却して得られた水溶液である。
約200種類に及ぶ有機成分が含まれているといわれる。
これは、「自然由来」のため、「農薬」と認定されず、つまり農薬のような厳しい規制を一切受けず、一部では卵を生むためのニワトリに使われている。
木酢液は、採卵鶏の飼料に混ぜて使うことで、魚粉など動物性たんぱくの飼料にある臭みを消せることと、ビタミンの多い卵を生むという報告がある。
また、鶏に限らず生き物を飼っている所は、糞尿などあり衛生的ではないので、強い殺菌性をもつ木酢液で消毒するのである。
ところが、その強い殺菌性であるがゆえに、DNAや染色体に損傷を与え突然変異を起こす細胞の変異原性が認められたという報告が、本山直樹(農薬毒性学)千葉大学教授らが発表した、各種市販および自家製木酢液・竹酢液7種類についての変異原性試験などよって行われた。
「自然のもの」というと健康に良さそうだが、そもそも自然は、いつも人間に都合の良いものとは限らない。
現在の私たちの食卓にのぼる“自然の”食材は、長い歴史の風雪を経て、淘汰され工夫されてきたものばかりである。
毒キノコの例を取るまでもなく、自然信仰にはリスクがあること、そして、ことさら添加物の危険を煽る言説には注意が必要である。
以上、食のフェイクニュースで「添加物が悪い。無添加がよい」という論法があるが自然のものは毒性ありというのが“食の常識”、でした。
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