腹八分目か、食べたいものを食べるか。あなたはどちらの食生活派だろう。食べ過ぎはいけないが、絶食ややたらの制限も考えものだ。結局「ほどほどに」なんていう抽象的な言葉が「正解」になるのだが、では一体「ほどほど」ってどれくらい?
腹八分目と食べたいものを食べるのは、どちらが良いかは状況によるのかもしれない。
食事をする目的は、身体に必要な栄養素を摂取することだ。
腹八分目に食べることで、過剰なカロリー摂取を避けることができるし、食べすぎてお腹を壊すこともない。
しかし、食べたいものを我慢するとストレスがたまり、長期的には健康に悪影響を与える可能性がある。
そのため、健康的な食生活を維持するためには、バランスの取れた食事を心がけ、腹八分目に収めることを意識することが重要、という当たり前の結論に落ち着く。
ただし、特別な日やイベントなど、食べたいものを食べることが許される場合は、たまには好きなものを楽しむことも大切ではないかと思う。
健康問題は、いずれにせよ特定の言説をうのみにするのではなく、skeptics(懐疑論者)然としたものの見方が求められるのかもしれない。
といったことを踏まえた上で、以下をお読みいただけると幸甚である。
私は腹八分目にすると調子が悪くなる
「『逆張り健康法』腹八分目を続けたら病気になる」。
そんな衝撃的なタイトルの記事が、部屋を片付けていたら出てきた『週刊現代』(2014年7月5日号)に書かれている。
では、「少食」や「糖質制限」とは一体何なのだろうか。
2014年4月に、人間ドッグの検査が言うところの「健康」の数値を大幅に緩めるべき、という調査結果が発表されてから、メディアでは血糖値や血圧やコレステロールなどの数値論争が盛んである。
そうした数値を正常化する食生活として、以前から「糖質制限」と「少食」が、健康キーワードとしてもてはやされてきた。
しかし、少なくとも私は、その効果を実感できない。
「腹八分目」や、「糖分の含まれる食物の制限」を実践すると、体重がすぐに落ちて健康を害するのだ。
ヘモグロビンA1Cの値が少しだけ上がったので、少々制限してみたら、すぐに調子悪くなってしまった。
お腹を壊さない適度の満腹感を得られる食生活が、精神的にも肉体的にも自分にはもっとも合っているように思える。
だから、失礼ながら、南雲吉則さんらのマスコミにおける少食のすすめの大合唱は、しっくりこない。
まあ、人によって違うのではないかと思う。
「腹八分目」なんて、何をもってそう判断すればいいのか、客観的な数値すら示されていないのだから。
カロリーは本当に「健康の敵」なのか
そんな「健康法懐疑論者」の私が思わず繰り返し読んでしまったのが、今回の「『逆張り健康法』腹八分目を続けたら病気になる」である。
記事は、奥村康順天堂大学医学部特任教授(免疫学)のコメントから始まっている。
奥村康さんは、「長生きしたいなら、食べたいものを食べたいだけ食べた方がいい」という意見である。
3つの根拠を挙げている。
- 1つ目は、さまざまな食べ物を摂取することが栄養的に長寿につながるから。
- 2つ目は、食べたいと思ったものは、今からだが必要としているものだから。
- 3つ目は、カロリー制限が長寿につながるという調査は動物実験ばかりでヒトを対象としていないから。
動物は食いだめをせざるを得ない環境に生きているが、人間は「次にいつ食事ができるかわからない」ということはないから体を壊すほど食べ過ぎず調整できる、と述べている。
少食で長生きするという学術論文はあるのか?
1つ目と2つ目については、老年学者の柴田博さんも、「『年をとったら肉より魚を食べた方がいい』は間違い」と記事の中でコメントしている。
柴田博さんは、コレステロールが低いと総死亡率は上がる、という見解を発表したことで有名な方である。
『肉食のすすめ』(経済界)という書籍で柴田博さんは、日本人は高度経済成長期の昭和40年頃から牛乳や牛肉の摂取量が次第に増えていき、その結果、昭和22年にやっと50歳だった平均寿命が伸び、昭和45年には世界一の長寿国になったと、日本人を根拠にして「肉禁忌論」に反証している。
3つ目については、私も以前から疑問に思っていたことである。
少食で長寿になると主張した「流行」の起源は幕内秀夫医師といわれているが、メディアの露出は、動物実験のデータ等を根拠に、書籍などを出している断食療法の専門医だった甲田光雄さんの方が多かったのではないだろうか。
甲田光雄さん本人は亡くなったが、少食を勧める甲田医院はいまもある。
甲田光雄さんは、たとえば『少食の実行で世界は救われる』(三五館)で、現代人は胃腸を酷使しすぎているのが万病の元であるとし、ネズミやサルを使った「少食で寿命が延びる」実験結果を紹介していた。
しかし、どこを読んでも、ヒトを対象にしたまともな統計が出てこない。
たとえば、「少食で免疫力が高まる」とする根拠として、247名の患者に「腹七分の少食を三年以上実行」すると、「風邪を引く度合いが目に見えて減ってきた人」が76%いた。
だから、少食によって身体の抵抗力が「明らかに強くなった」「手や足にケガをして傷ができても、化膿しないで早く治るようになったという人もたくさんおられた」などと言い切っている。
これははっきりいって、医学的には全く価値のない根拠である。
医学者でも科学者でもない私がエラソーに書く話ではないが、コントロール群(調査で違いを見るための比較群)もないし交絡因子(食べ物以外に「抵抗力が強くなった」ように見える生活の変化)も考慮されない考察であることは明らかだ。
引き続き調べる必要がある
もちろん、だからといって肉をガバガバ食べていればいいということではない。
もとより、少食や一定時間断食を提唱する医学者もいる。
要はこの「食べ方と健康の問題」は、まだ決着がついた話ではなく、引き続き調べる必要がある、ということである。
にもかかわらず、わずかな臨床体験で、何を食うな、何をしないと長生きしない、などとメディアで喧伝するのはやめてほしいということだ。
私たちは、そもそも健康はオーダーメイドの問題であるということを忘れず、かつセンセーショナリズムのマスコミや、目立とう精神満々の医師・医学博士らの話は鵜呑みにしないことである。
以上、腹八分目か、食べたいものを食べるか。あなたはどちらの食生活派だろう。食べ過ぎはいけないが、絶食ややたらの制限も考えもの、でした。
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