『自律神経を整えるぬり絵』(アスコム)は、ケガによる指先機能や脳疾患のリハビリ、認知症の予防などにぬり絵を勧める書籍である。西洋医学絶対だから、投薬治療なしに「ぬり絵で自律神経が整うわけないだろう」という向きもあるかもしれないが、どうだろうか。
『自律神経を整えるぬり絵』は、135万部を突破したという。
スケプティクス(懐疑的)な立場は西洋医学絶対だから、投薬治療なしに「ぬり絵で自律神経が整うわけないだろう」という向きもあるかもしれない。
ぬり絵というと、幼稚園や小学校の低学年での作業を連想するだろうか。
もちろん、今もそれはあるだろう。
それだけでなく、実は塗り絵がリハビリとして再評価されているのだ。
ケガなどで指先の機能が損なわれた場合や、脳疾患による脳障害からの回復や認知症の予防に、ぬり絵など指先を使用した訓練が効果的という考えが、近年のリハビリ業界でも注目されているのだ。
……ということを踏まえた上で、以下をお読みいただきたい。
ぬり絵は認知症予防脳トレなどに効果的
『自律神経を整えるぬり絵』(アスコム)の著者は、小林弘幸順天堂大学医学部教授、画は藤田有紀さんである。
高次脳機能障害の人はご存知と思うが、順天堂大学は、てんかんセンターがあり、脳障害についてはまじめに医学的接近を行っている。
さて、『自律神経を整えるぬり絵』はどういう本かというと、タイトル通り、自律神経を整えるために使うぬり絵の台紙が24パターン掲載されている。
小林弘幸医師によると、ぬり絵は、認知症予防、脳トレなどに脳に刺激を与えるため効果的とされている。
脳障害対策ということなら、発達障害者の精神安定にも有効かもしれない。
ところで、自律神経とは何か、一応触れておこう。
自律神経とは、心臓や呼吸や消化や血管の動きなど、無意識のうちに心身の機能を調節してくれる神経のことである。
呼吸は自分で止めたり、深呼吸したりできるが、24時間コントロールすることはできない。
しかし、心臓や呼吸や消化活動は、動かそうと意識しなくとも日夜勝手に動いてくれる。
これは、自律神経が動かしてくれているからである。
自律神経には、体の活動時や昼間に活発になる交感神経と、安静時や夜に活発になる副交感神経がある。
自律神経は24時間働き続けているが、交感・副交感の2つがバランスよく機能することで、健康をたもてる。
たとえば、緊張したり、望みどおりにならずストレスが高まったりすると、交感神経が活発になり、血液中の顆粒球が増えてリンパ球が減り、がんやパーキンソン病などになる、だからリンパ球を増やしてバランスを整えろ、という説を唱えた「福田安保理論」の安保徹氏(1947年10月9日~2016年12月6日)もいた。←ただし少なくともがん治療としては医学的に認知されていない。
それはともかく、ストレス、不規則な生活、疾患などによって「自律神経の乱れ」が起こると、心身の不調につながりやすいといわれる。
ぬり絵は、自律神経が正常にはたらくようにするためにいいそうである。
ぬり絵によって
1.呼吸が整い
2.単純作業でリフレッシュでき
3.色のいやし効果を享受できる
というのだ。
イライラしているとき、悲しいことがあったとき、元気がでないとき、リフレッシュしたいとき、集中力を高めたいとき、体の不調が気になるときなどに、感じるままに楽しく、自由にぬることで自然と心が落ち着き、自律神経のバランスが整うと、著者の小林弘幸教授は述べている。
「『大人のぬり絵』がブームになっていますが、人気の背景には子供時代に戻ったような『懐かしさ』があるようです。懐かしいという感情は、自律神経を安定させる効果もあることから、私はぬり絵の効果に着目しました。さらに、五感への刺激がもたらす作用を分析し、より自律神経の働きを活性化させるための工夫も織り込んで、今回のぬり絵を開発しました」(はじめに、より)
本書『自律神経を整えるぬり絵』によると、自律神経を整えるものには、音楽やアロマテラピーなどもいわれてきたが、それらは「聴く」「嗅ぐ」といった受け身の行動なのに対し、ぬり絵は自分の手先を使う自発的な行為で、ぬり絵を行うことで、交感神経と副交感神経の両方を底上げするそうである。
『自律神経を整えるぬり絵』では、「1日15分のぬり絵」で元気な心と身体を手に入れようと、1冊の中に24の和柄ぬり絵台紙が収録されている。
集中力と根気が必要な作業だから後にゆったりできる
ということで、医学的に重大な疾患が、ぬり絵をすればたちどころに治る、というような大仰な話ではない。
薬のようなただちに効くものではないかもしれないが、気持ちを落ちつけるのにいかがですか、という内容である。
冗談ではなく、私たちが学校の授業や、退屈な会議などで、教科書やレジュメにぬり絵をしたり、落書きをしたりすることはあるだろう。
あれ、結構必死に集中してやっている。
案外、それで蓄積するストレスに負けそうな自律神経を整えているのかもしれない。
それはともかくとして、『自律神経を整えるぬり絵』では、「1日15分のぬり絵」と具体的に時間を指定しているが、実際に1枚の台紙は15分ではとても完成できない。
たとえば、これは一酸化炭素中毒による心肺停止から生還して、今は健常な生活をしている私の妻が、20分×3回かけて、やっと1枚の台紙を完成させたところである。
添付されている「お手本」は、さらに細かい塗り方をしている。
塗り絵自体は「いやし効果」という表現からイメージできるようなゆったりしたものではなく、かなり集中力と根気が必要な作業なのである。
つまり、のんびりストレスフリーに作業するのではなく、指先と連携した脳をこき使うことで、脳の広い領域を刺激し、「次は何を使うか」と考えることで、脳の萎縮や機能の低下を防ぐものである。
集中すれば、その後はゆったりしたいと考える。
だから、ぬり絵の狙いは、交感神経が有意義味の現代人に対して、ぬり絵の作業時はより過酷な脳へのストレスを与えることで、その後はストレスフリーになる。そんな仕組みではないだろうか。
いずれにしても、別に侵襲性のあることではなく、時間つぶし、気分転換でできることである。
脳障害対策、認知症予防、脳トレなどに、ちょっとモノは試しで『自律神経を整えるぬり絵』にチャレンジされてはいかがだろうか。
以上、『自律神経を整えるぬり絵』というが投薬治療なしに「ぬり絵で自律神経が整うわけないだろう」というスケプティクスも、はここまで。
自律神経を整えるぬり絵 日本の二十四節気をぬる – 小林弘幸, 藤田有紀
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