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運命は「口ぐせ」で決まる: 望みを叶える人に学ぶ 思考を現実化する法則(三笠書房)が話題。例の“引き寄せの法則”についてだ。

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運命は「口ぐせ」で決まる: 望みを叶える人に学ぶ 思考を現実化する法則(三笠書房)が話題。例の“引き寄せの法則”についてだ。

『運命は「口ぐせ」で決まる: 望みを叶える人に学ぶ 思考を現実化する法則』(三笠書房)が話題である。例の“引き寄せの法則”についてだ。Facebookのタイムランには「科学的に証明」とまで書かれている。さすればスケプティクスに考えてみよう。

「引き寄せの法則」が、本当に科学で証明されたのなら、その人はとっくにノーベル賞をとっているだろう。

単純に考えて、物事を成就させるのに、お金を出して買えば済むものならともかく、相手の事情や心境にもよるものだったら、いくら自分が頑張ってもどうにもならないだろう。

哲学で言えば「必然と偶然」、仏教で言えば「因と縁」で物事は成り立っている。

その人が「引き寄せ」と頑張ってどうにかなることではないだろう。

たとえば、自分は今日の入学試験に絶対受かる、何しろそれまでの予備校の判定試験では、合格率が最高値だった、過去問もしっかりやっている、という人がいたとしよう。

常識的に見て、そいつが落ちるなら、誰が受かるんだ、というぐらい学力の確実さがあっても、たとえば試験日の朝、重篤な病気になったり、交通事故にあったりしたら、そもそも受験の機会自体がなくなってしまうだろう。

天の配剤なるものがあるかどうかはともかくとして、いわゆる「運命」というのは、そういうことだ。

自分の意思や目論見だけで何でもできるのなら、そんなに楽な世の中はない。

私たちは、おのおのが様々な人や物や事象のバランスの中で生きていて、自分の勝手な意思でそれを自分本位に作り変えることなどはできない。

神様がいるかどうかは信仰の自由だが、少なくとも自分が神様に成り変わることはできない。

仏教では、それを「諸法無我」という。


では、何か成就を願うことは無駄なのかというと、そんなことはない。

なんとなれば、人が事を起こすときに、唯一の砦は自分の強い意志だからだ。

まるっちょ(原作/かわさき健、作画/人見恵史、双葉社)という漫画がある。

妻子を不慮の事故で亡くした葬儀会社社員の男が、孤児となった娘を育てる話だが、第9巻の第81話「大志を抱く者へ」の巻をご紹介しよう。

主人公の上司が、息子がカメラマンになりたいと言っていると心配しているので、主人公は知り合いのカメラマンを紹介して話をさせた。

カメラマンいわく、「テクニックなんてもんは、数撮ってりゃ勝手に身につく。ましてや感性なんてもんは、他人から教わるもんじゃねえ。プロとなるためにまず必要なのは…、自分は何が何でもこの世界でやってくんだ!そういった強エ気持ちなんじゃないか。それがスタートラインだよ」

そう言われて、息子は何が何でもカメラマンになるって決心したという話だ。

つまり、細かい打算や「合理的」な見込みは度返しで、結局は「何が何でもこの世界でやってく」という気持ちが大事だということだ。

明暗を分ける第1段階は、ここ一番、というときには、全身全霊で「何が何でも」と頑張ること。

その上で、手垢にまみれた表現をするなら、「運を天に任せる」ということではないだろうか。

……ということを踏まえた上で、今一度考えてもらいたいのが「引き寄せの法則」なるものだ。

“引き寄せの法則”の虚実

『運命は「口ぐせ」で決まる』の著者は、生き方健康学者と称する佐藤富雄氏である。

タイトルにテーマが凝縮されている。

どうして「運命は口ぐせで決まる」のか?

それは、脳が口ぐせを具現化するからだという。

いうなれば、自己啓発セミナーなどがいう“引き寄せの法則”である。

もちろん、それを信じて仕事や勉強に勤しむことは否定しない。

しかし、「科学的に証明」とまで書かれて喧伝されている以上、「おいおい」と突っ込んでおかねばならないだろう。

運命は「口ぐせ」で決まる

第一に、「脳が口ぐせを具現化」という言い分の限りにおいても、全く合理的ではない。

すべて口ぐせの通りになるのなら、「不老不死」と唱えていれば本当にそうなるのか。

んなわけがないだろう。

それに、人生というのは、自分の努力や心がけだけでは成立しないのも子供にでもわかる理屈だ。

たとえば、道をまっすぐに歩こうとしても、反対側から人が来たらぶつかってしまう。

人ならまだいい。

車ならどうするのか。

ブレーキを踏むタイミングをはずしたら、命まで危ない。

だいたい、「科学的」というが、統計的な根拠でもあるのか。

たとえば、1000人が、あることを口ぐせにしたら、具体的にどう実現したのか(しなかったのか)、という「前向き調査」をしたという話など聞いたことがない。

そして、同書に限らないが、“引き寄せの法則”を唱える書物は、引き寄せの法則でコレが実現しました、という話は書いても、実現しませんでした、という話は絶対に出てこない。

もし1000人の口癖の「前向き調査」を行ったとして、1人でもそのとおりになれば、その1人の“成功談”だけを書き、残りの999人のことは「なかったこと」になってしまうのだろう。

善意に見ても、“引き寄せの法則”の話は、「後ろ向き」な都合のいい例を書いているにすぎないと思う。

理系なら気づいてもいいはずだが

信じるものは救われる話にツッコミを入れるのは、野暮なことかもしれない。

しかし、過去にあった(今もあるかもしれないが)、いかがわしい抗がん健康食品のバイブル本の構成がまさにそうだったではないか。

その健康食品を使ったら、がんが治ったという体験談を載せる。

しかし、そもそも「治った」こと自体、医学的に確かなことなのか。

また、その健康食品を利用して、「治った」人は何人て、治らなかった人は何人なのか、という統計的な根拠が書かれたためしがない。

本当なら、科学や医学の教育を受けた人なら、そのへんは見破ってもいいはずだが、理系でもかんたんに騙される。

しょせん、学校の勉強が、試験のための勉強、いい成績をとるための勉強でしかないから、自分自身の理性として反映されていないのだろう。

断っておくが、“引き寄せの法則”を信じてはならない、自分に暗示をかけて頑張ってはならない、などといいたいのではない。

大いに頑張ったらいい。

ただし、根拠のないことを信じても、ただの情弱の温床になってしまうという話だ。

口癖も結構だが、何より、自分の目標を定めたら、合理的に逆算して、それに噛み合う努力をすべきだと思う。

“引き寄せの法則”の信者の皆さん、そう思いませんか。

以上、運命は「口ぐせ」で決まる: 望みを叶える人に学ぶ 思考を現実化する法則(三笠書房)が話題。例の“引き寄せの法則”についてだ。はここまで。

カラー版イチから知りたい!仏教の本 カラー版 イチから知りたい! - 大田由紀江
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この記事を書いた者
草野直樹(かやのなおき)

自己肯定感も、自己意思決定能力も低かったのですが、昨今流行の家系図作りをしているうち、高祖叔父と“日本のケインズ”の接点を発見。仙台藩で和喜次時代のお世話役で姻戚関係も!?。もう30年早く知りたかったなあという思いはありますが、せめてこれからは一国民、一有権者の立場から、ケインズ系経済学支持者としての発言を自分の意志で行っていきます。

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