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静かなる決闘(1949年、大映)は手術中のミスから梅毒に感染した青年医師の苦悩を描いた黒澤明監督のヒューマンドラマ

静かなる決闘(1949年、大映)は手術中のミスから梅毒に感染した青年医師の苦悩を描いた黒澤明監督のヒューマンドラマ

静かなる決闘(1949年、大映)は手術中のミスから梅毒に感染した青年医師の苦悩を描いた黒澤明監督のヒューマンドラマです。原作は菊田一夫の戯曲『堕胎医』です。東宝争議の影響で東宝を脱退した黒澤が、初めて他社(大映)で製作した作品です。

『静かなる決闘』とはなんだ

第3次東宝争議により他社で撮った黒澤明

静かなる決闘(1949年)は大映作品ですが、黒澤明といえば東宝です。

どうして本作が大映で撮られたのか。

静かなる決闘

終戦直後、映画会社の東宝に労働争議がありました。

その中で、「経営陣にも不満だが、争議よりも仕事がしたい」と、経営側にも労組側にも与しない一部俳優とスタッフが、組合を脱退しました。

たとえば、長谷川一夫や高峰秀子らが1947年に独立した新東宝であり、黒澤明や山本嘉次郎、谷口千吉、本木荘二郎らが設立した映画芸術協会がそうです。

黒澤明監督は、『野良犬』『醜聞』『羅生門』『白痴』などを同協会所属として東宝以外の他社で撮っています。

『静かなる決闘』あらすじ

『静かなる決闘』は、軍医として奉職中、手術中のミスで梅毒に感染してしまった青年医師を三船敏郎が演じています。

青年医師を三船敏郎

軍医として戦地で働く青年医師・藤崎恭二(三船敏郎)は、中田進上等兵(植村謙二郎)の手術中に、誤って小指を切ってしまいます。

そして、その傷口から血液を通じて上等兵が罹患していた梅毒に感染します。

梅毒なら、現在は早期の薬物治療で完治が可能です。

具体的には、ペニシリン系の抗生物質の投与で治癒します。

ただ、当時はサルバルサンというヒ素剤が治療に使われていました。

梅毒は当時は、治癒まで長い年月が必要な厄介な感染病だったのです。

戦地から戻った三船敏郎は、産婦人科医である父親(志村喬)の病院で働きます。

しかし、自分が梅毒に感染したことを周囲には話しません。

三船敏郎には、松本美佐緒(三條美紀)という婚約者がいました。

が、三條美紀にも真実は告げませんでした。

「結婚は当分するつもりはない」

そう言って、自分との結婚を諦めさせようとします。

病院には、峯岸るい(千石規子)という看護師見習いが勤めていました。

千石規子は、妊娠して男に捨てられ、自殺しかけたところを藤崎に助けられた元ダンサーでした。

その千石規子があるとき、三船敏郎が誰もいない診察室で、隠れるように梅毒治療薬のサルバルサンを打っているところを知ってしまうのです。

人道主義者の三船敏郎を鬱陶しく思っていた千石規子は、三船敏郎が三條美紀との婚約を反故にしたことと、梅毒に感染したことについて、陰では何をしているかわからない男だと軽蔑します。

千石規子は、お腹の子どもを堕ろしたいと言うたびごとに三船敏郎に咎められるので、

「その神様みたいな人が、何だってサルバルサンの注射なんてしてるんです?」と言い返します。

すると今度は、三船敏郎の父親の志村喬までがそのやりとりを立ち聞きしてしまい、志村喬も三船敏郎子が梅毒患者であることを知ってしまうのです。

三船敏郎は志村喬に、自分の梅毒は手術中に感染したものであり、三條美紀に真実を告げないのは、治るまで何年も彼女を待たせるわけにはいかないからだと真相と真意を説明します。

今度は、千石規子が部屋の外でそれを盗み聞きし、自分の悪意の思い違いを恥じて自己批判します。

その日以来、千石規子は三船敏郎に対する態度を改め、三船敏郎に言われていたように真面目に看護師の資格も取得。

病院の仕事も勤勉になります。

ある日、三船敏郎は自分に梅毒を感染させた中田上等兵と偶然再会します。

中田上等兵は、結婚してもうすぐ子どもが生まれると三船敏郎に話します。

梅毒のことがあるので驚いた三船敏郎は、上等兵の妻(中北千枝子)や胎児にも梅毒が感染しているに違いないと懸念。

梅毒の診察を受けるよう勧めます。

その結果、上等兵の妻の中北千枝子はやはり感染していました。

胎児はお腹の中で死んでしまったため、三船敏郎の病院で緊急手術を受けます。

一方、三條美紀は別の男性との結婚を決めのした。

そして、三船敏郎に結婚式の前日に別れを告げにきます。

三條美紀が帰ったあとで、三船敏郎はやり場のない怒りや男としての苦悩を、千石規子に激しくぶつけてしまいます。

それを聞いた千石規子も号泣してしまうのですが、三船敏郎は感情の波がおさまるとまた冷静な医師に戻って患者の治療を続けます。

原作は菊田一夫の戯曲『堕胎医』

『静かなる決闘』というタイトルの映画ですが、「決闘」とは、梅毒との決闘であると同時に、自分自身との決闘でもあると解すことができます。

なぜなら、いつ治るともわからない病気を抱えた三船敏郎は、恋愛も結婚も諦め、それでも自暴自棄にならずに生きていくその辛さとの闘いを描いているからです。

一日300円の入院費に悩む庶民感覚や、激しい雨音や屋外の土砂降りなど、黒澤明監督特有の演出も見られます。

ただ、聖人君子のように描かれた三船敏郎が唯一、三條美紀の肉体への執着を表現するシーンは、千石規子にしまいこんでいた感情をぶつけたときだけでした。

自分に梅毒をうつし、全く悪びれることもない中田上等兵に対しても、三船敏郎は責めようとしません。

通常、こんなに立派に振る舞えるのだろうかと思います。

惜しむらくは、三船敏郎の苦しみや悔しさをもっと露骨に描いたほうが、よりヒューマンな作品になったでしょう。

原作は菊田一夫の戯曲『堕胎医』です。

原作によると、三船敏郎は最後に発狂してしまうのですが、映画では人格が壊れてしまうところまではいきません。

その一方で、中田上等兵が生まれてきた赤ん坊を見て抜け殻のようになってしまいます。

医学的に言われているのは、妊娠している人が梅毒に感染していると、胎盤を通して胎児に感染。

死産、早産、新生児死亡、奇形などが起こることがあるとされます(先天梅毒)。

映画では、赤ん坊そのものは映っていません。

観る人たちの想像力に任せます。

手術後、中北千枝子が見せてほしいと頼んでも、千石規子は即座に拒否。

三船敏郎も、硬い表情で前方をじっと見つめたまま中北千枝子に同じことを言うだけです。

その意味で、『静かなる決闘』は、梅毒の恐ろしさも伝えたかったのかもしれません。

『静かなる決闘』のまとめ

『静かなる決闘』は、菊田一夫の戯曲『堕胎医』を原作とする、黒澤明が初めて他社(大映)で製作した作品です。

三船敏郎、志村喬、千石規子、中北千枝子ら東宝の俳優の作品に、大映の三條美紀が加わり、大映画配給するという、ある意味お宝の作品とも言えます。

以上、静かなる決闘(1949年、大映)は手術中のミスから梅毒に感染した青年医師の苦悩を描いた黒澤明監督のヒューマンドラマ、でした。

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