木酢液を使った鶏卵に変異原性が認められた衝撃の研究報告が話題になっている。木酢液は農薬ではないので、使っても農畜産成果物は「無農薬」である。木酢液そのものの安全性とともに、無農薬でありさえすればいいという肥料・飼料のあり方に一石を投じる。
木酢液とはなんだ
鶏卵と木酢液についての話をするのは次の点を、スケプティクス(懐疑的)な立場から明らかにしたいからである。
「食の安全」を語る上で、しばしば取り沙汰されるのが食品添加物や農薬だ。
木酢液は、農薬ではないので、木酢液を使った農畜産物は「無農薬」ということになる。
しかし、「無農薬」というだけで喜んではならない。
むしろ、「農薬=危険」と単純に考えることで、農薬を効果的に使うメリットを見ることができなくなるし、農薬でない危険な物の使用も許してしまうことになるからだ。
渡辺宏氏の『「食の安全」心配御無用!』(朝日新聞社)や、松永和紀氏『食卓の安全学』〈家の光協会〉などでは、農薬以外に使われている農薬よりも問題のあるものとして、揃って木酢液を挙げている。
木酢液とは、簡単に言えば、炭焼きの煙を冷却してできる弱酸性の液体だ。
土壌改良用だけでなく、健康食品として飲料用まで売られている。
千葉大学教授の本山直樹氏(農薬毒性学)らは2004年、各種市販および自家製の木酢液・竹酢液7種類について変異原性試験を行った。
論文によると、商品によってはホルムアルデヒドのような有害物質が含まれていたという。
そして、品質のバラツキも大きく、農産物の病害虫防除効果は認められず、そればかりか市販の木酢液4種類と、自家製品1種類、つまり7種類中5種類に変異原性が認められたという。
変異原性というのは、生物の遺伝情報に変化をひき起こす作用を有する物質または物理的作用をいう。
遺伝情報に変化、と聞いて連想するのは発がん性である。
即発がんということではなくても、忽せにできない報告ではある。
筆者は「普通の人」なので、これ以降、木酢液の安全性について調べたより新しい情報を知らない。
詳しい方は教えていただきたい。
鶏卵に木酢液をどう使うか
さて、その木酢液と鶏卵は、どのような関係があるのか。
木酢液は、採卵鶏の飼料に混ぜて使われていることもあるのだ。
つまり、木酢液を体内に取り込んでしまうのである。
魚粉など、動物性たんぱくの飼料にある臭みを消すためと、木酢液を飼料に混ぜるとビタミンの多い卵を生むという報告があるためだ。
最近のブランド卵は、ビタミンの多さを誇っているものが少なくないいが、あれは飼料にビタミンそのものを混ぜるケースのほか、木酢液を仕込んでいる場合もあると考えられる。
しかし、サイトやパッケージなどで、木酢液使用を明記している業者は少ない。
意図や自覚はともかく、こっそりと使う形になっており、消費者に隠したいと思われても仕方ない。
木酢液を使った場合、鶏卵にどれぐらい影響を与えるかが明らかでなくても、「木酢液使用」はきちんと明らかにして、消費者の判断を仰ぐべきだ。
消費者は、商品の選択に必要な情報を得る権利がある。
そこで、ブランド卵を扱う身近な生産者・販売業者に、「御社で扱われている採卵鶏の飼料を教えていただけますか」と、面会、電話、メール等によって尋ねまわった。
木酢使用の調査差結果
採卵鶏に何らかの形で木酢液を使ったか否かについて、各社の回答は以下の通りである。
- こだわり桜色たまご(丸紅エッグ)……千葉産、非遺伝子組み替え飼料、木酢液不使用
- 桜小町(丸紅エッグ)……茨城、栃木産、食品衛生法に則った飼料、木酢液不使用
- 甲州山懐さくらたまご(黒冨士農場)……国産交配種、木酢液不使用
- 地養卵(多摩エッグ)……木酢液使用(HPで明言)
- イセ食品……「植物の味わい」のみ木酢液不使用(しかし、商品のパッケージはこれも木酢液使用となっている)
- トキワの卵(南部生協)……木酢液不使用、トキワ養鶏自家配合飼料(PHFコーン、乾燥青草、大豆かす、魚かす、プレノミックス(必須アミノ酸)、カキ殻、リン酸カルシウム、食塩)、卵黄も無着色
- はぐくむたまご(大栄ファーム)……トウモロコシ、マイロを主食とし、他にふすま、脱脂米ぬか、大豆粕、魚粉、アルファミール、炭酸カルシウム、木酢液不使用
- たまごサイズミックス(元木養鶏場)……トウモロコシ、マイロを主食とし、他にふすま、脱脂米ぬか、大豆粕、魚粉、アルファミール、炭酸カルシウム、木酢液不使用
- 赤玉たまご(元木養鶏場)……トウモロコシ、マイロを主食とし、他にふすま、脱脂米ぬか、大豆粕、魚粉、アルファミール、炭酸カルシウム、木酢液不使用
- Y千代たまご……無回答
- Yファーム……無回答
- T生協……無回答
- Aキタ……無回答
- Y本養鶏……飼料はトウモロコシを主原料とする。添加物にゼオライト、木酢精製液(0.7%の濃度)、海藻、ヨモギ、桑の葉
「木酢液使用」といっても、どのメーカーの木酢液なのか、量はどのくらいかなどは明らかにできなかった。
こう述べては身も蓋もないが、先方に嘘をつかれたら何の意味もない。
偽装という問題は現実にある。
いずれにしても、木酢液にに懸念があっても、細かく調べる消費者は少数であろう。
しかし、確認しなければ、消費者は偽装も含めて訳のわからないものを自覚的判断を行う機会もないまま食べさせられる。
消費者は「受け身」であり、弱い立場であることは確然としている。
にもかかわらず、松永和紀氏は上記の書で「(消費者が)減農薬だ、無農薬だともてはやし、『農薬と名のつくものを使わなければいい』と一部の農家に思わせてしまったのです」(31~32ページ)などとする。
これは消費者の実態と矛盾するのではないか。
疑似科学批判の立場に立っているとする科学者にも、しばしば「国民の無知」に原因を求める愚かな意見を述べる者がいる。そんな逆立ちした責め口上で何が解決するのだろう。
鶏卵と木酢液、まとめ
そもそも筆者は安全性に関係なく、自分の食べる鶏卵に木酢液は求めていない。
使われ方からして「不可欠」のものとは思えないからだ。
臭みが気になるのなら「卵かけご飯」をしなければいいだけのことだ。
次回は、関連として「水道水とアスベスト」について述べる。
以上、木酢液を使った鶏卵に変異原性が認められた衝撃の研究報告が話題なのでブランド卵を扱う身近な生産者・販売業者に調査した、はここまで。
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