緑茶はがんの予防になる、という話を聞く。しかし、それが本当なら、緑茶文化のある我が国にはがん患者が少なくとももっと減っていいはずだ。ただ、ピタミンCやカテキンなど、その成分自体がヒトに対しても有効にはたらくという疫学調査はある。では緑茶を飲むとガンの予防になるという説は本当なのか。
(独)国立健康・栄養研究所内情報センター健康食品情報プロジェクトは、「『健康食品』の安全性・有効性情報ネットからのお知らせ」というメールマガジンを配信している。
同センターのサイトは、食品・食品成分に関する科学的根拠に基づいた情報の提供を行っている。その更新情報を、メールマガジンで知らせてくれるのだ。
たとえば、茶のカテキンのがんに対する有効性情報も更新されている。同サイトには、「緑茶は現在でも世界でもっともよく飲まれている茶飲料である。緑茶を多く飲む人は、さまざまな疾病にかかりにくいという疫学調査がきっかけとなって、単なる嗜好品というだけでなく、その健康効果がクローズアップされている」とされ、「カテキンを含む緑茶として飲用した条件では、食道がん、膀胱がん、膵がん、乳がん、子宮頸がん、胃がん、卵巣がんなどのリスクの低減に対して、有効性が示唆されている」と書かれている。
要するに、緑茶(カテキン)ががんの予防に有効といえるかもしれない、という話だ。
「緑茶として」ということは、カテキンだけでなく、緑茶に含まれるテアニン(お茶の旨み成分)、ビタミンC、ビタミンB2、葉酸、カリウム、カルシウム、リン、マンガンなどによる相互作用と考えるべきだが、いずれにしても、改めて緑茶のがんに対する有効性を議論する契機となりそうだ。
カテキンというのは、植物としての緑茶が自身を外部の敵から守るために備えている殺菌成分である。それ自体を分解する酵素も緑茶自身には含まれているので、緑茶として適度な量を飲む分には人間にも抗酸化作用が期待できるとされている。
緑茶については、主に胃がんに対して有効であるとの疫学研究が過去に発表されている。
ところが、東北大公共政策大学院の坪野吉孝教授は、宮城県に住む40歳以上の男女に対する9年間の追跡調査から、「緑茶=抗がん」に懐疑的な考察を行い注目された(2001年3月)。
しかし、この調査に対して毎日新聞記者の瀬川至朗氏は、「予防になる」説はまだ完全に否定されていないと『健康食品ノート』(岩波書店)で主張した。
坪野吉孝氏の調査は、日本と中国における疫学研究で示されているリスク低下の可能性ラインである「8~10杯以上になったときの有効性については言及していない」ことを指摘。
調査に「1日10杯以上」という項目がないのだから、「10杯以上で有効」という従来の見解は、坪野吉孝氏の調査と「とくに矛盾していないともいえる」といいる。すなわち、坪野吉孝氏らの調査だけでは、これまでの疫学研究で考えられてきた「肯定」を否定できるまでのものではない、というわけである。
さらに、厚生労働省は、全国7地域の40~60代の男女に対する7?12年にわたる追跡調査から、緑茶をよく飲む(5杯以上)女性では胃がんになるリスクが低くなっていることを発表(2004年8月)。坪野吉孝氏の主張を完全にひっくり返した。
こちらは、血中の緑茶ポリフェノールを採取しての調査だった。坪野吉孝氏の調査方法は「1日×杯飲む」だが、「1杯の緑茶」といってもカテキンなどの量はさまざまであるし、それではどのくらい体内に吸収されているかもわからない。
だから、厚労省の調査は結果だけでなく、調査方法も評価されるものだった。
しかし、その調査では喫煙男性について緑茶の成果を見ることはできなかった。
つまり、「交絡因子」について課題を残してしまった。
現実の生活で緑茶だけで生活することはあり得ない。「交絡因子」との関係をきちんと解明できなければ、私たちの生活での緑茶の働きを真に解明したものとはいえない。
また、緑茶が抗がんに有望だからといって、緑茶やカテキンを大量に摂取すればいいわけではない。
カテキンだけを抽出・精製して摂取すると、殺菌力のある科学物質になり人体にも有害といわれる。
カテキン摂取目的に緑茶として大量摂取しても、混在するカフェインの影響で頭痛、神経興奮作用、利尿作用、血圧上昇などが現れる可能性がある。
いずれにしても、緑茶の抗がん作用自体は根も葉もないものではないと見ていい。
ただし、私たちがそれを確かなものとして認識し、実践するには、さらなる研究が必要であるようだ。新しい研究成果に期待しつつも、慎重にその推移を見守りたい。
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