『釣りバカ日誌スペシャル』(1994年、松竹)を見ました。三國連太郎が石田えりだけしかいない時間に泊まってしまい、不倫を疑った西田敏行が暴れまくる盛り上がりは、スラップスティックギャグとともに山田洋次脚本の“毒”だと思いました。
『釣りバカ日誌 スペシャル』は、佐々木課長(谷啓)の娘・志野を演じる富田靖子に、加勢大周が心を寄せるという展開が中心です。
コレ自体、ストーリーの方はやや緩慢な印象です。
ところが、事情あって、スーさん(三國連太郎)が浜ちゃん(西田敏行)宅にみち子さん(浜ちゃん妻=石田えり)だけしかいない時間に泊まってしまうあたりでぐっと盛り上がります。
自分の妻が別の男と一晩ともにする。
当然ですが、不倫を疑った浜ちゃんは顔が傾き、スーツを振り乱して半狂乱!
その暴れっぷりたるや、家具もガラスもめちゃくちゃ。
数人がハマちゃんの身体を押さえても止められず、引き摺って暴れ続けるのです。
尋常でない動き。
これは、スラップスティックギャグです。
と、同時に、山田洋次という人が喜劇の中にさりげなく仕込む、いつもの「毒」だとおもいました。
山田洋次監督の“毒”
社長シリーズは、成功はしませんが森繁社長が浮気を計画するパターンでしたが、山田洋次監督は、男はヒロインに対してひとすじで、一方の女には自己中心的なキャラクターでもう1人の男がいる(←必ずしも肉体関係があるとは限りませんが)という設定が得意なんです。
よほど若いときに女性で傷ついたのかもしれません。
ハナ肇の馬鹿シリーズにおける岩下志麻がそうですし、『男はつらいよ』でも、マドンナの多くは最終的に結ばれる相手がいながら、寅さんを「雨宿り」的に利用しています。
松坂慶子の時などは、わざわざその気になっている寅次郎に、自分が別の男と結婚することを報告にくる残酷なシーンを作っています。
『幸福の黄色いハンカチ』は二股ではありませんが、倍賞千恵子は出産歴があり、かつそれを高倉健には黙っていたという設定でした。
それが伏線になり、高倉健は人に手をかけてしまいます。
それだけショックが大きかったわけです。
その事情は劇中には一切出てきませんが、やはり一般的には黙ってるのはいかがなものでしょうか。
結婚の既成事実作ってからなし崩しにいうってずるいとおもいませんか。
その子が名乗りを上げて出てきたらどうなるんだろ、なんて心配してしまいます。
『釣りバカ日誌』でも、みち子さんは、ハマちゃんにも打ち明けない本音を、スーさんには打ち明けている「特別な関係」になっています。
第3話でも、鯉太郎が生まれるときにスーさんが立ちあって、鯉太郎が産道から出てくるところをスーさんだけが見ています。
それが原因で、そのときもハマちゃんは拗ねていました。
そりゃそうです。
愛妻の大事なところ、しかも赤ちゃんが出てくるところを見られてしまったのですから。
しかも毎回、ハマちゃんが帰ってくる前から、スーさんはハマちゃんの家で着替えてくつろいでいます。
そりゃ、やりすぎだろう、非常識だとおもいますが、その流れの中でスペシャルの展開があるわけです。
もっとも、『釣りバカ日誌』は毒というより、三者のそのような微妙な関係で見る人を多少なりともハラハラさせたいのかもしれません。
三國連太郎が、もう少し若いと洒落になりませんが、たぶん不倫にはならないのだろうと思える年齢だから、喜劇の範疇で展開できます。
みち子さんとスーさんの2人きりのときは、みち子さんがなぜハマちゃんと結婚生活を続けているのか、ということを明かす大切なシーンもあります。
あまりその生々しさが前面に出てしまうと、ちょっと作品としての趣旨が変わってしまう感じがしますので、そのへんは非常に微妙なギリギリのところで作られているなという気がしました。
石田えりが第7作で降板したのも、そのへんで「ギリギリ」を演じることに疲れたのかもしれません。
なお、冒頭の画像は、『釣りバカ日誌6』のものです。
以上、『釣りバカ日誌スペシャル』で三國連太郎が石田えりだけしかいないの泊まり西田敏行が暴れる山田洋次脚本の“毒”の件、でした。
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