暴力団排除条例が施行されたが、その本気度に疑問符がつくと指摘していた矢先、やっぱりなあ、という人事があった。警察庁の安藤隆春長官が勇退する人事が14日の閣議で了承されたのだ。
暴力団排除条例は施行されて半月。暴力団撲滅が本気なら、これからが仕事をするときだろうに……
任期満了でさっさと退任 トンズラ安藤警察庁長官にヤクザは恐らく高笑い

 警察庁の安藤隆春長官(62=写真)が勇退し、後任に片桐裕次長(60)が昇格する人事が14日の閣議で了承された。
 唐突な退任にさまざまな臆測も飛び交ったが、これは順当な人事。ただし、「霞が関のルールにおいて」という意味だ。
「今年の6月で任期丸2年になった安藤長官は辞めるタイミングをうかがっていました。ところが、管政権が大弘道震災の対応を優先するために幹部人事の凍結命を出していたため、辞め時を逸していたんです。野田政権に代わったが、国会会期中は交代できない。で、臨時国会が終わった直後のこのタイミングになった。10月から東京でも暴排条例がスタートし、ひとつのケジメもっいたということもある。また、いま辞めないと、来春まで辞め時を逸し、後輩の人事が詰まってしまう。霞が開流の既定路線の交代です」(警察庁関係者)
 これに呵々大笑しているのは暴力団ではないか。安藤長官といえば、「弘道会の弱体化なくして山口組の弱体化はなく、山口組の弱体化なくして暴力団の弱体化はない」と勇ましかった。これまでタブーだった暴力団と芸能界、スポーツ界との癒着にも切り込み、紳助事件もその余没ではじけたことは言うまでもない。(『日刊ゲンダイ』10月17日付)

なのに、これからというときにトンズラだ。

溝口敦氏もこうあきれている。

「すべてが中途半端な形でとっ散らかして辞めるような印象ですね。山口組、弘道会を弱体化させたというが、彼らは分裂しているわけでもないし、先日、山口組の司忍組長は新聞のインタビューで暴排法を痛烈批判し、『地下に潜るだけ』『まったく心配していない』と語っていた。暴排法というのは、これまで警察VSヤクザの闘いだったのを社会VSヤクザという構図にしたものです。果たして、これで暴力団を撲滅できるのか、と思っていたら、さっさと任期で辞めてしまう。後任も苦労すると思いますよ」

要するに、こういう条例を施行しましたよ、ということで安藤隆春長官は「仕事をした」ことになる。そこが大事なのであり、その運用や成果などはどうでもいいことなのだ。

もともと、今回の暴力団排除条例は、「排除」を一般人にゆだねたり、「排除」する基準があいまいだったりと、運用に疑問符がつけられていたものである。

その上、施行の責任者が何のフォローもなく「霞が関ルール」に従い「後は野となれ山となれ」では、そりゃ、司忍組長でなくとも心配しないだろう。

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  • 発売日: 2013/10/22
  • メディア: 新書