この温もりを自分だけのものにしたい

山口百恵・三浦友和。百友(モモトモ)コンビ、という呼び方は40代以上の人なら懐かしいと思うはず。70年代、東宝映画や大映テレビの作品を数多く撮った山口百恵と三浦友和のドル箱コンビがそう呼ばれた。

山口百恵と三浦友和が“世紀の結婚”をしたのが80年11月19日。2011年現在で山口百恵は52歳、三浦友和は59歳になった。
31年にもなるというのに、いまだにメディアではこの時期になると「結婚記念日」の記事を書く。これまでは関連の取材を断っていた三浦友和も、今年は自ら結婚生活を語った自伝本『相性』(小学館刊)を上梓。夫妻の“素顔”を公開したことで話題になっている。

2人はグリコのCM共演をきっかけに知り合い、79年に三浦友和がプロポーズした。山口百恵は、大映ドラマの『赤い』シリーズのあるシーンで、セーター姿の三浦友和に抱かれるシーンを撮ったとき、この温もりを自分だけのものにしたいと思った、と『蒼い時』に記している。

同書は、中学から芸能生活を送ってきた21歳が書ける文章ではない。当然、ゴーストライターが仕上げているわけだが、そのエピソードは事実に基づいているのだろう。山口百恵という人間の価値観がよく表現されている。

芸能レポーターから目黒区議に転身した須藤甚一郎は、『週刊大衆』(12月5日付)の連載「偏見自在」において、当時をこう述懐している。
思い出すなあ。結婚式・披露宴の盛り上がりは、芸能界史上で空別絶後。ワイドショー、週刊誌が芸能ネタの全盛期で、こちとらは取材で駆けずり回った。 結婚式の行なわれた東京・赤坂の霊南坂教会周辺には、百友ペアをひと日見ようと徹夜組までいて、全国からファンが約1万人も押しかけ「ワァー、キャッー」。挙式後、夕方、教会前に百友カップルが姿を見せると約千人ものリポーター、カメラマン、記者が「ウオーッ」「おめでとう」「百恵!」と吠えた。
思えば、この頃はまだ、スターは万人の憧れだった。

だから、歌を歌って、ドラマや映画に出て、ラジオのパーソナリティもつとめた。

山口百恵は、歌で大きな賞を取ったこともないし、紅白でトリをつとめた経験もない(森昌子は経験あり)。

ただし、レコードの生涯セールスはピンクレディ、森進一に次ぐ数字をたたき出している。実働期間を考えれば、大変な数字である。ドラマや映画でも実績を残した。CMにも出た。ラジオの『ラブリーポエム』(ニッポン放送)は筆者も熱心に聴いていた。

それに引き換え、今の「スター」は、個的化、細分化されている。

たとえば、「グラドル」はおっぱいが大きいだけ。週刊誌のグラビアとバラエティぐらいしか仕事がない。

AKB48といっても、ファンとそうでない一般の人との関わり方がまるで違う。

ひと頃の嵐にもそれはいえた。コンサートのチケットやCDなどオリキで支えられる市場は潤っても、テレビで数字を取れない(こちらは、二宮和也や櫻井翔などが克服しつつあるが)。

プロ野球もそうだが、現代の人気商売は、タレントの働き場所(ターゲット)があらかじめ決まった分業制が確立されているのである。

先発ローテーションの投手は今は週1回。登板する日が素人にもわかってしまう。

が、山口百恵が全盛の頃は、次の日の先発予定の投手が試合展開いかんではよもやのリリーフ登板をするから采配が読めずに面白かった。

芸能界も、「分業」にこだわらない活躍ができるスターを大衆は待っている。それがいないから、いまだに山口百恵や松田聖子がもてはやされるのだ。

隔週刊 山口百恵「赤いシリーズ」DVDマガジン 2014年 5/20号 [分冊百科]

隔週刊 山口百恵「赤いシリーズ」DVDマガジン 2014年 5/20号 [分冊百科]

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/05/02
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