宣伝はどんな難病でも奇跡の回復ができそうだが

健康食品。重篤なものも含めて病気に罹患していると利用することが多いのではないだろうか。では、なぜ利用するのか。はたしてそれはは「治療」といえるのか?

「抗がん」を売り物にする健康食品の宣伝を見ると、どんな難病でも奇跡の回復ができるように書かれている。そのイメージを補強するために、そこには必ず使用者の体験談や、もっともらしい僅かなデータが掲載されている。
2005年10月に薬事法違反で逮捕、有罪判決を受けた史輝出版のアガリクスに関する書籍は、体験談がでっちあげだった。まず、体験談にはそうした危うさがあることを私たちは認識しなければならない。

もちろん、すべての体験談がそうだとは断言できないが、かりに本当だとしても、成功被験者の紹介には疑問に思うことがある。もし、奏功例があったとしても、それがすべてではなく、奏功していない例だって多数あるのではないか、ということだ。むしろ、その方が圧倒的だろう。

業者は、奏功しない例は絶対に公表しない。というより、奏功しない人は亡くなってしまうわけだから、「死人に口なし」で、そのような報告は上がってこないのだろう。

しかし、奏功しない例は出さずに奏功例だけを見せれば、消費者には、あたかもそれを使えば必ずうまくいくようなイメージをもたせることができる。しかし、それは公正な宣伝とは言えないのではないだろうか。

NPOの法人格をとっている、糖鎖と昆布フコイダンという健康食品を宣伝するサイトがある。そこには「臨床例」として、末期がん患者10名の白血球や腫瘍マーカーなどの数値が、その健康食品を使用したことで改善し、余命が伸びたと報告されている。

私はそのサイトに、その後、その患者たちはどうなったのかを尋ねた。すると、次のような回答があった。

「4名は亡くなっています。しかし、末期なわけですし、数値が良くなって余命が伸びたのは画期的な病気の改善だと思います。もちろん健康食品のおかげだと思っています」

これを額面通り受け止めれば、すばらしい健康食品だと思うだろう。末期でさえそうなら、早期ならこれだけで治ってしまうかも……、などと思うかもしれない。しかし、それほど画期的なものなら、とっくに病院の治療で採用されているだろう。

まず、亡くなった人がいるのなら、亡くなったことを追記すべきである。サイトには「数値の改善」だけが書かれているため、閲覧した人にとっては、まるでその末期がん患者全員が持ち直していると受け取れる。

余命というのは、ひとつのめやすであり、たとえば余命3ヶ月の人が半年生きることは別段珍しいことではなく、それをもって「病気が改善した」「健康食品のおかげ」ということにはならない。

また、マーカーなど数値はその時々で上がったり下がったりするもので、それだけで即、病状の改善と判断することはできない。きちんと、CTや内視鏡などの画像診断や、細胞診などの医学的判定を行うべきである。

そして、これは科学や医学では常識だが、こうした効き目の試験は、思い込みによる影響を分離するため、真薬と偽薬を投与する被験者グループを用意し、効果を検証しなければならない。それを二重盲検試験という。

いずれにしても、亡くなった人がいるのにそうした情報を書いていない以上、そのサイトのデータは「虚偽」といってもいいのではないだろうか。藁にもすがる気持ちで、その健康食品を求める患者を裏切るものとはいえまいか。

今、華々しい体験談や宣伝データなどに心を動かされて何らかの健康食品を検討している方は、そのデータに書かれている被験者が、その後どうなったか確認されることをお勧めしたい。

健康情報・本当の話

健康情報・本当の話

  • 作者: 草野 直樹
  • 出版社/メーカー: 楽工社
  • 発売日: 2008/05
  • メディア: 単行本