「歴史的」な役割

みのもんたの“引退宣言”が話題になっている。レギュラー4本がいっぺんに終了して来春にはもち番組がなくなるそうだ。

みのもんたが稀代の名物MCとみなされるようになったのは、かつての『午後は○○おもいッきりテレビ』から。中高年主婦いじりや、怒りの電話相談など個性的な進行で番組が注目されたことによるが、実はこの番組、それだけでなく「歴史的」な役割があった。
1980年代以降、我が国では第二臨調主導のもとで社会保障制度の見直しが積み上げられ、健康管理の自己責任化と社会保障制度を市場化へシフトさせる「構造改革」が企図されてきた。

これはどういうことか。

医療費がパンクするから医療サービスを削減しますよ、という「行革」では国民は納得しないだろうから、「民活」と「自己責任」を強調することによって健康「増進」を唱えるようになった。

要するに、「医療費をケチるよ」とはいわずに、「みなさんのカラダなのですから健康はみなさん自身が守りましょう」と言い換えたわけだ。

どちらも結局は医療行政の後退ではあるのだが、同じことを言うのでも、人のいい日本国民が受け入れなければならないような言い方にしたところは狡猾である。

2002年に、野党欠席の中で与党が強引に成立させた「健康増進法」こそは、その総仕上げといえる健康自己責任の立法化であった。

各自が健康状態を自覚せよという「国民の責務(第2条)」とともに、「特別用途表示食品(第6章第26条、第33条)」という、いわゆる健康食品の一部にお墨付きを与える条項もある。

つまり、国民に健康管理の責務を押しつけながら、肝心の公的医療サービスは削減し、その受け皿として健康食品を検討することすらも国が法律で定めているのである。

そして、その立法化までの地ならし期間には、○○を食べると××によい、という様々な「健康食材」番組が登場したが、その先頭を切ったのが『午後は○○おもいッきりテレビ』だったのである。

番組制作者の意図や自覚がどうあれ、その意味で同番組は、国策プロパガンダ的な役割を果たし、見事に家庭の中高年主婦層に「健康自己責任」のイデオロギーを刷り込んだのだ。

その賛否はともかくとして、マスコミ人としてそのような国策番組を仕切れたことは、みのさん、さぞやりがいがあっただろう。

「引退」後は稼業の傍ら、キャスター養成学校を開校すると書くメディアもあるが、果たして、そのような時代を作れるような、もしくはそのような仕事を任されるようなキャスターを輩出できるのだろうか。

けだし、見ものである。

みのもんたの朝ズバッ! ココロが元気になる「感動ストーリー」 (祥伝社黄金文庫)

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  • 作者: TBS みのもんたの朝ズバッ!編
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2011/07/22
  • メディア: 文庫