トモセラピーのようなもの……か

近赤外光照射、という新しいがん治療につながるかもしれない実験が成功したと報じられている。

マウス体内にがん細胞を仕込み、体の外から近赤外光という光を当て、破壊する実験に成功したというのだ。従来の放射線治療と違い、正常な細胞は傷つけずがん細胞だけを破壊できるがん治療法が見込める、ということだが……。
報道から近赤外光照射について説明しているところを引用しよう。

「チームは、主にがん細胞に存在するたんぱく質と結びつく性質を持った「抗体」に注目。この抗体に、近赤外光の特定の波長(0.7マイクロメートル)で発熱する化学物質を取り付け、悪性度の高いがんを移植したマウスに注射した。

 その後、がんがある部位に体外から近赤外光を15~30分間当てた。計8回の照射で、がん細胞の細胞膜が破壊され、10匹中8匹でがんが消失、再発もなかった。一方、抗体注射と照射のどちらかだけを施したマウスや何もしなかったマウスは、すべてが3週間以内にがんで死んだ。複数の種類のがんで同様の効果を確認。注射された抗体ががん細胞と結びつき、照射によって化学物質が発する熱で衝撃波が発生、がん細胞だけを壊したと結論づけた。(毎日新聞 11月7日(月)3時0分配信)」

ヤフーのトップページにも出ていたから、それなりにインパクトはあるのだろう。確かに可能なら実現を期待したい新発見である。

ただ、留保すべき点を書いておくと、がん細胞というのは、その生体の正常な細胞が何らかの契機で異常細胞に暴走するものである。

ところが、この実験では、マウスにがん細胞を外から入れている。つまり、その生体の中でできたものではなく異物である。

生物には異物を排除する反応があるので、異物を突っ込む実験では、がん細胞が消えたとしても、近赤外光照射によるものなのか、もとから持っている排除反応なのかがわからない。

健康食品の奏功の根拠として用いられる動物実験は、「サルコーマ180の試験」といわれ、まさにそれである。健康食品には、がんの特効薬になるエビデンスのあるものは存在しない。それが現実だ。

がん治療といえば、手術、抗がん剤、放射線照射という三大療法が基本だが、近年、それに代わる、もしくはそれを補完する治療法としてマスコミに取りざたされたものがいくつかある。

ガンマナイフ、トモセラピー、ハイパーサーミア、単純ヘルペスウィルスHF10、WT1ペプチド……。

たとえば、その中のトモセラピーは、今回の近赤外光照射と似ている。

断層写真の「トモ(Tomo=tomogram)」と、治療の「セラピー(therapy)」を合わせた造語で、2003年にアメリカの医療機器メーカーが開発した、従来よりも負担の少ない放射線の照射法である。

放射線治療は通常、CT撮影による画像診断を行い、その上で放射線治療を行うが、それでは照射の位置が病巣から外れる可能性がある。トモセラピーは、巨大なドーナツ形の照射装置に乗った患者が、画像撮影と放射線治療を同時に受けることで、CT画像からがんの位置を割り出し、コンピューター制御によってその時点で照射部位を決め照射する。つまり、別の過程で生じる可能性のある照射ポイントのズレを防ぐことができるというものだ。

メディアでは、これを新機軸の治療法として持ち上げた。宇治武田病院放射線治療センター長・岡部春海氏は、同病院の公式サイトで、「(トモセラピーは)早期発見時の根治治療からターミナルケアにおける痛みを制御する治療まで、幅広く効果的な放射線治療を行えます」と、万能の治療方法であることを強調している。そして、「例えば白血病の場合は、体全体の骨のみに集中して照射することが可能です」と述べていた。

だが、筆者がトモセラピーを治療に使っている病院に問い合わせたところ、「開発されてまだ数年しか経過しておりませんので、確定的なことはまだ申し上げられない段階と思います」「放射線の分布ですが、従来型よりは標的への集中度が高く、周囲の正常な臓器への線量を低下させることが出来る可能性があると思いますが、それが実際の治療効果と副作用の低減に繋がるかどうかはまだ確定していないと思います」(北斗病院放射線科)と慎重だった。

要するに、メディアが騒いだだけだったのだ。

新しい治療法は、現在のがん患者だけでなく、将来なり得るという意味で全国民に利益をもたらす。だから関連のニュースは大いに関心があるが、だからこそ、メディアも、無責任なバラ色記事を書きっぱなしにするのではなく、そうした解説をきちんとつけるべきではないだろうか。

健康情報・本当の話

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  • 作者: 草野 直樹
  • 出版社/メーカー: 楽工社
  • 発売日: 2008/05
  • メディア: 単行本