我が国では、血液型で性格や職能や人間性を判断するという、面妖な人間判断が根強く信じ込まれている。血液型というのは、血液中に4通りある赤血球の抗原タイプをあらわしたものである。血液型は骨髄移植でも変わるし、最近ではアメリカ・ハーバード大などの国際研究チームが、AとB、AB型の赤血球を、O型の赤血球に変えることのできる酵素を開発したというニュースもある。
要するに、医学的には輸血や遺伝などで重要な意味のあるものだが、人間の内面を分類するものではない。
にもかかわらず、これが信憑性を以て信じられているのは、「占い」や「言い伝え」ではなく、「科学」が関与しているものと思われているからだ。
日本で血液型と性格の関係に最初に言及したのは原来復という医師であり、「流行」させたのは東京女子師範学校(現お茶の水女子大)の教授だった古川竹二である。
現在の「血液型信仰」を作ったのは、1970代後半から80年代に大量に啓蒙書を上梓した能見正比古・能見俊賢父子や鈴木芳正氏だが、彼らもまた、これは占いではなく「人間学」だと言い張った。
たとえば、能見正比古・能見俊賢父子は、衆議院議員、スポーツ選手、タレントなど有名人の血液型分布を例に挙げ「政治家には×型が多いから×型は政治家タイプ」「△型は大器晩成だから、プロ野球の新人王は△型が少ない」「×型のキャスターAと△型の女優Bが破局したのは、×型の几帳面さと△型の自由奔放さが災いした」などと「考察」した。
統計を用いたもっともらしさとともに、テレビなどのメディアで、顔やキャラクターが知られている有名人を例に出すことで、何となく当たっているような気にさせる効果を狙った。
ところが、心理学者や統計学の専門家らは、能見正比古・能見俊賢父子らが指摘する職業・性格による血液型分布の偏りは学問的には立証できないと批判(*注)。
要するに、「△型」と職業や性格などの関連は見られないということだ。現在、科学的な根拠のある「血液型と性格関連説」は存在しない。
筆者は、そうしたデータとしてはもっとも新しいであろう、2008年度のプロ野球選手の血液型分布について調べてみた。
【2008年度プロ野球選手血液型分布(『週刊ベースボール』2008年2月23日増刊号より)】
A型……投手143名、野手146名(37.9%)
O型……投手115名、野手117名(30.4%)
B型……投手80名、野手92名(22.6%)
AB型……投手27名、野手42名(9.1%)
不明……投手41名、野手27名
「不明」のほとんどは外国人(アメリカ)選手である。
それを見てもわかるように、プロフィールとして血液型を公開し、何よりその人自身が血液型にこだわるのは西欧先進国ではありえないことだ。
結論を述べると、このデータにも統計的な血液型の偏りはない。つまり、「△型だから野球選手に向いている」などという考察はできない。
日本人の場合、各血液型の出現頻度はおおよそA型が4割、O型が3割、B型が2割、AB型が1割といわれているが、これは民族や人種によって変わる。
ドイツのヒルシュフェルトという医師は、第一次世界大戦終結の年に兵士の血液型を調査。白人にA型が多く、中近東やアジア・アフリカにいくに従ってB型が多い調査結果の「違い」を知り、それを「白人が優秀である」ためとこじつけた。
根拠がない上に差別の温床にもなっている血液型人間判断。あなたはそれでも、血液型で人を語りたいか?
(*注)拙著『「血液型性格判断」の虚実』『血液型性格判断のウソ・ホント』(いずれもかもがわ出版)は、衆参国会議員、プロ野球やJリーガー、力士といったスポーツ選手、タレントやキャスターといった芸能人などについて、血液型による分布を30年前から調査。いずれも血液型による偏りを見ることはできなかったことを書いている。
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