free web hit counter

「豊かな死」という共同通信報道への疑問

この記事は約3分で読めます。

「豊かな死」への疑問
「豊かな死」というタイトルにさせていただいたが、久しぶりにスケプティクスな話題である。突然、消費税が話題にのぼった不可解な参議院通常選挙から3日後の7月14日、共同通信で「豊かな死」の各国ランキング調査なる記事が配信された。それについて書いてみたい。

調べたのは、エコノミスト・インテリジェンス・ユニットというイギリスの調査会社である。終末医療や苦痛を和らげる緩和医療について各国の医療関係者に聞き取りを行い、普及状況や質、医療費など複数の観点から評価したところ、「豊かな死」の一位はイギリスで、日本は23位に留まったそうだ。

「トップは英国で、ホスピス普及率の高さに加え、専門家養成の環境が整備されていることなどが評価された。2位以下はオーストラリア、ニュージーランドが続いた。

高齢化が著しい日本について、調査に当たったトニー・ナッシュ氏は『医療システムは高度だが、在宅医療など患者や家族に寄り添うケアが難しいようだ』と分析した。

施設の整備度が評価される一方、医療保険の不備が問題視された米国は9位。中国(37位)、ブラジル(38位)など新興国は軒並み評価が低く、人口増大に医療普及が追いつかないと指摘されたインドは最下位だった」

これを額面通り読むと、「イギリスの体制は素晴らしい、それに引き替え日本はダメだ」という結論にしか行き着かない。

ヨーロッパはいかにも福祉国家が成功した国々で、それに引き替え我が国はだらしない、老後が心配だ、という感想になってしまう。

さらに、医師や病院は儲けているくせにけしからん、と怒りの矛先が医療機関に向いてしまうかもしれない。

いずれにしても、西洋に幻想を抱き気後れしがちな日本人の卑屈な精神を大いに刺激するニュースである。

豊かな死と物はいいようで国威発揚

だが、筆者はちょっと立ち止まってスケプティクスに考えてみた。

ここでイギリスが評価されているのは、「豊かな『死』」というテーマであり、あくまで「終末医療や苦痛を和らげる緩和医療」のことである。

つまり、5年生存率や治癒・寛解率といった治療成果ではない。

もちろん、緩和医療や在宅医療は充実した方がいいだろうが、それをいうなら、そもそもそういうものの世話にならない長寿で健康な“ピンピンコロリ”が実現できる方がいいだろう。

率直に言って、イギリスの医療技術は専門家から決して評価されていない。

たとえば、イギリスは他のEU諸国に比べ、がん治療に対する国民一人当たりの支出は多いが、その一方で生存率は低い。

では日本はどうか。日本は医療費がかかりすぎて国家財政がパンクすると、マスコミも政治家もネガティブキャンペーン大合唱である。

しかし、実際には日本の医療費はGDP比で先進七カ国中最下位、GDPの上位30国中21位(「OECD HEALTH DATA2006」)に過ぎない。

むしろ他国に比べて医療費は低いのだ。

にもかかわらず、WHOの「World health report 2000」では、健康達成度が世界第1位、平等性が第3位とされている。

乳児死亡率も7カ国中もっとも少ない。すばらしい医療的成果を誇る国なのである。

ちなみに、2位スイス、3位ノルウェー、4位スウェーデン、5位ルクセンブルグ、6位フランス、7位カナダ、8位オランダ、そして9位になってやっとイギリスがランクインしている。

といっても、日本民族が特別な健康の遺伝子を持っているというわけではない。科学技術や食生活の向上、そして医療技術の高さと皆健康保険制度など、日本の戦後社会の科学的文化的発展と制度的成熟が、国民の健康を分け隔てなく支えてきたからにほかならない。

日本も満点と言うことではなく課題はあるし、もし医療費を仕分けされて国庫負担金を今以上に減らされてしまったら、この水準と成果はもう維持できないだろう。

いずれにしても、イギリスの調査会社が発表した「イギリス一番!」の調査結果は、その意図や自覚にかかわらず、イギリスの医療が十分な水準にないための国威発揚の報道と解釈せざるを得ない。

この記事を書いた者
草野直樹(かやのなおき)

自己肯定感も、自己意思決定能力も低かったのですが、昨今流行の家系図作りをしているうち、高祖叔父と“日本のケインズ”の接点を発見。仙台藩で和喜次時代のお世話役で姻戚関係も!?。もう30年早く知りたかったなあという思いはありますが、せめてこれからは一国民、一有権者の立場から、ケインズ系経済学支持者としての発言を自分の意志で行っていきます。

草野直樹(かやのなおき)をフォローする
雑談
トレンド雑談

コメント