
政府は、商業登記や法人登記、国家資格などにおいて、結婚前の旧姓(旧氏)だけを記載する「旧姓単記」を可能とする法案の提出を進めています。これは、1人に公的に2つの氏を認めることに等しく、選択的夫婦別姓の賛成派はもちろん、まじめな反対派にも快諾しがたい方針です。
高市政権が進めている旧姓通称使用拡大法案は、次のような内容です。
1.戸籍は一切手を付けない
2.商業登記や法人登記、国家資格などオフィシャルな姓の使用について、戸籍上の姓を記載せず結婚前の旧姓のみを記す「旧姓単記」を認める
3.マイナンバーカード、運転免許証、パスポートなどの重要な本人確認書類については、これまで通り「旧姓の併記」までとし、旧姓単記の対象外とする
つまり、戸籍上の夫婦同姓制度を維持したまま、ビジネスや社会生活の一部(登記や資格など)で、旧姓のみを使用できるようにする仕組みです。
夫婦別姓の議論において、この「旧姓単記」や旧姓の通称使用拡大という方針は、賛成派・反対派の双方から、立場は違えど異なる視点で懸念や批判が示されている複雑なテーマです。
選択的夫婦別姓の「賛成派」からの視点
賛成派(法的別姓を求める立場)からは、旧姓単記や通称使用の拡大は「本質的な解決にならない」という意見が多く見られます。
法的な不安定さ
戸籍上の氏(本名)と社会生活で使う氏が分かれるため、銀行口座、契約、海外での手続きなどで「同一人物証明」が必要になり、かえって混乱やコストが増える。
個人の尊厳の問題
通称使用はあくまで「例外的な配慮」や「おまけ」としての扱いであり、婚姻後も自身の本来の氏を法的に名乗り続ける権利(個人の尊厳)が保障されていない。
選択的夫婦別姓の「反対派」からの視点
一方、まじめな反対派(夫婦同姓の維持を重視する立場)からも、旧姓の単記や過度な拡大は、「実質的な二重の氏を認めることになる」として警戒感があります。
家族の一体感への懸念
公的な書面で旧姓のみの記載を認めると、実質的に「夫婦で異なる氏」を名乗ることが定着し、反対派が重視する家族の一体感や戸籍制度の原則が形骸化するのではないか。
社会的な混乱
「1人に2つの氏」があるような状態になり、行政やビジネスの現場で本人確認や管理のミス(同一性の確認漏れなど)が生じるリスクが高まる。
同一人物の確認(本人確認)が困難になる
1人に2つのオフィシャルな姓をもたせることで、何より本人確認が難しくなります。
戸籍上の氏名と旧姓が異なると、同一人物が異なる名前で別々の会社の役員に就任したり、代表者として登記されたりした場合、行政や取引先が「同一人物であること」を瞬時に見抜くのが難しくなります。
過去に不祥事を起こした人物や、役員就任に制限がある人物が、旧姓を使って登記することでその経歴を隠蔽(ロンダリング)しやすくなるのではないかという懸念があります。
現在の金融機関は、法人の実質的支配者や役員の「本人確認(KYC)」を極めて厳格に行っています。
登記簿が旧姓単記になると、戸籍上の名義と一致しないため、確認のために追加の証明書類(住民票やマイナンバーカードの提示など)を求める必要があり、手続きが煩雑化します。
私も、2019年に姓の「読み」を変えただけで、その煩雑な手続きを銀行側にさせてしまった経験があります。
今回の方針が法案化されると、「煩雑な手続き」は銀行側だけでなく、本人側にも発生します。
そりゃ、別姓賛成派は飲めないですよね。
また、企業間取引における信用調査において、登記簿上の人物の同一性確認に時間がかかり、ビジネスのスピードが落ちる可能性があります。
さらに、会社がトラブルを起こしたり倒産したりした際、債権者が役員個人の法的責任(損害賠償請求など)を追及しようとしても、登記上の氏名が戸籍と異なると、裁判手続きや財産の差し押さえ(執行)の段階で名義の不一致による混乱が生じるリスクがあります。
なぜ政府はこの方針を進めるのか?
おそらくは、双方の立場に配慮した、「現実的な妥協案(中間案)」としてこの方針を模索しているのだろうといわれています。
戸籍制度は維持されています。
一方で、別姓賛成派が訴える「結婚で姓が変わることによるビジネス上の不利益や、研究実績・キャリアの断絶」という実務的な困りごとを軽減する目的もあります。
結果として、この方針は「双方のニーズを部分的に満たそうとした仕組み」であるわけです。
しかし、前述のように「どちらの立場からも不徹底、あるいは矛盾している」と映るため、現在も議論が続いています。
ちなみに外国では、こうなっているといいます。(GoogleAIより)
イギリス:旧姓を認めつつ「過去20年の履歴」を義務付け
アメリカ:名前は何を名乗るのかは自由だが、生涯不変の「社会保障番号(SSN)」や、企業向けには「法人番号(EIN)」が徹底して紐付けられている。
フランス:法的な本名は「出生時の姓(不変)」で不変だが、社会生活では配偶者の姓を「使用名(Nom d’usage)」として名乗ることが認められている
でもこれは、戸籍制度の有無や、名前のあり方についての考えがそれぞれ違うので、「外国がこうだから……」というのはあまり適切な意見とは言えないですね。
強いて言えば、アメリカが参考になるかも。
要するに何を名乗ってもいいけれど、マイナカードと紐づける、にすれば、今回の方針でも混乱は防げます。
もっとも、国民全員がマイナカードを持たないと、これも絵に描いた餅なんです。
みなさんは、どうお考えですか。

選択的夫婦別姓 これからの結婚のために考える、名前の問題 (岩波ブックレット 1093) – 寺原 真希子, 三浦 徹也

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