
「2028年に放送が止まってしまう」――。最近、SNSやインターネット上でこのようなショッキングな噂を目にすることはありませんか?「愛着のあるラジオが聴けなくなるの?」「今のテレビがただの箱になってしまうの?」と、不安や好奇心が入り混じった声を耳にします。
メディア業界の動向を見つめてきたアナリストとして、まずは皆さんに安心していただきたいことがあります。2028年にすべての放送が突然消えるわけではありません。しかし、私たちのライフラインである「放送」が、歴史的な分岐点に立っているのは事実です。
本記事では、AMラジオのFM転換がもたらす変化と、地上波テレビにまつわる「停波」という誤解の正体を、最新のデータをもとに知的かつ分かりやすく解き明かしていきます。
AMラジオがなくなる?47局中44局が目指す「FM一本化」の衝撃
今日の主たる情報源です。
2028年秋までに、全国の民放AMラジオ局47局のうち、実に44局がAM放送を停止し、ワイドFM(FM放送)へ完全転換することを目指しています。長年親しんできたAMの電波が、多くの中継局で役割を終えようとしているのです。
なぜ、各局はこれほど一斉に舵を切るのでしょうか。そこには、単なる時代の流れでは片付けられない切実な経営上の理由があります。
- 設備の老朽化: 多くのAM送信所は建設から半世紀が経過し、巨大な鉄塔や機器の更新期を迎えています。
- 「二重投資」の重圧: 現在、多くの局はAM放送と、災害対策用のワイドFMを並行して運用しています。収益が厳しい中、両方のインフラを維持し続ける「二重投資」は経営を圧迫する最大の要因です。
- 災害への強靭性: AM送信所は性質上、海沿いや河川敷など水害リスクの高い場所にありますが、FM送信所は高台や山頂に設置できるため、災害時に強いという利点があります。
特に衝撃的なのはコストの差です。AMの親局1局を更新するには約20億円という巨費が必要ですが、FMは約4,000万円で済みます。この圧倒的な経済的格差が、FM一本化への決定打となっているのです。
「地デジが映らなくなる」は大きな誤解!2028年は「始まり」の年
ラジオのFM転換のニュースと混同され、ネット上で拡散されている「2028年地デジ停波説」ですが、これは明確な誤解です。
2026年8月時点で、総務省やNHK、民放連から「2028年に地デジを終了する」という公式な発表は一切なされていません。では、2028年とは何を指すのでしょうか?
それは「現行放送の終了」ではなく、「次世代地デジ(地上放送の高度化)の導入開始目標」です。4K・8K放送やネットとの高度な連携、移動中の受信性能向上などを目指した「新方式」の検討が進んでおり、その目標時期が2028年度頃とされているに過ぎません。
「今のテレビが使えなくなるのでは?」という懸念も不要です。仮に新方式が始まっても、過去のアナログ放送終了時の例を見れば、10年以上の長い移行期間が設けられるのが通例です。
2028年は「地デジ終了の年」ではなく、現時点では「次世代地デジ導入開始が検討されている目標時期」です。
現時点において、2028年に突然テレビが映らなくなる事実は確認されていません。どうぞ安心してお手持ちのテレビをお使いください。
広大な北海道・沖縄は別格?「AM残留」という選択肢
全国がFM化へ向かう中、あえて「AM継続」を選択する地域もあります。それが、広大な土地を持つ北海道や、多くの離島を抱える沖縄などの地域です。
ここにはFM電波の技術的な特性が関係しています。FM波は「直進性が強い」という性質があり、山陰や広大な平地、遠く離れた離島をカバーするには、膨大な数の中継局を建設しなければなりません。
これらの地域で全域をFM化しようとすれば、中継局の建設費用が跳ね上がり、費用対効果が見合わなくなります。リスナーの耳を守るため、あえてコストのかかるAM放送を併用・継続するという、地域に根ざした苦渋かつ誠実な決断が下されているのです。
ラジオは「死」ではなく「進化」へ。AIとポッドキャストが変える未来
「停波」は終わりを意味する言葉ではありません。むしろ、ラジオ業界はデジタルへの適応という「進化」の真っ只中にいます。
- radikoの圧倒的な普及: アプリは既に1億ダウンロードを突破。月間利用者(MAU)も約850万〜900万人に達しています。
- radiko vs TVerの分析: テレビの見逃し配信「TVer」が早送りや倍速機能を備え「視聴者ファースト」を貫く一方、radikoは権利関係からタイムフリーに「再生開始から24時間以内・合計3時間まで」という制限があり、早送りも制限されています。この使い勝手の差が、今後のデジタル競争の課題と言えるでしょう。
- 多言語を操るAIパーソナリティ: ラジオ大阪の「弁天オ」は、大阪弁でニュースを喋るだけでなく、英語や中国語への展開も進めています。
- ポッドキャストの台頭: 放送局の強みである高品質なスタジオと音声技術を活かし、若年層向けのコンテンツ制作が加速しています。
こうした進化を急ぐ背景には、残酷な経営現実があります。送信所を維持するための電気代だけで、毎月100万円を優に超える局も少なくありません。社長の生の声として「工場を常に稼働させているのと同じ」と評されるほどの高額な固定費が、放送メディアの形を変えさせているのです。
リスナーができる準備:新しい「音」の受け皿を手に入れよう
お住まいの地域でAM放送が停止される場合、引き続きラジオを楽しむためには準備が必要です。
- ワイドFM対応ラジオへの買い替え: 従来のAM専用ラジオ(1605kHzまで)では受信できません。90.0〜94.9MHzまで受信可能な「ワイドFM対応」のマークがある機器を選びましょう。
- スマホでのradiko活用: 電波が届きにくい場所でも、クリアな音質で楽しめます。
また、こうした制度の変わり目を狙ったトラブルにも警戒が必要です。 特に65歳前後のシニア層を狙い、「2028年に停波するから今のテレビやラジオは使えなくなる」と嘘をついて高額な機器を売りつける悪質な訪問販売が懸念されます。ご家族に高齢の方がいらっしゃる場合は、ぜひ声をかけてあげてください。 正確な情報は、総務省やNHK、日本民間放送連盟の公式サイトで確認するようにしましょう。
メディアの形が変わる時、私たちは何を聴き、何を観るのか
2028年という節目は、決して「放送の死」を告げるものではありません。
それは、莫大な維持コストや設備の老朽化という現実を乗り越え、より効率的で高品質な「新しい放送の形」へとアップデートされるための過渡期なのです。
メディアの形が変わっても、そこで語られる言葉や、偶然出会う音楽の価値が変わることはありません。むしろ、よりクリアな音や映像、そしてデジタルの利便性を手に入れることで、私たちの日常は豊かになるはずです。
最後に皆さんに問いかけたいことがあります。 「あなたが最後にラジオやテレビを通じて、思いがけない『新しい発見』や『心震える瞬間』に出会ったのはいつですか?」
メディアが激変する今こそ、情報の受け取り方、そして生活に寄り添うメディアとの付き合い方を見つめ直してみてはいかがでしょうか。


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