吝嗇家で面白困ったエピソードが満載

立川談志が亡くなり、スタンダップコメディの跡継ぎがいないといわれている。すでに後継者といわれた上岡龍太郎は引退しているし、となると消え行く芸になってしまうかもしれないというので、亡くなっても落語のDVDや書籍などの売れ行きがすごいらしい。立川談志という落語家の存在感が、亡くなってより明らかになったということか。
それだけの人気者であるから、立川談志が亡くなったことはネットでも話題になっている。立川談志の生前の様々なエピソードや落語家、タレント、そして人間としての評価……。

そんな立川談志評は、おおむね以下のような人物像である。

「歯に衣(きぬ)着せぬ毒舌が世間を騒がせることもあったが、その内には、誰よりも落語を愛す“全身落語家”の魂を宿していた。『落語は人間の業(愚かさ)の肯定』と表現した談志さんは、その芸の追求に生涯をささげた。

毒舌や破天荒な生き方から『反逆児』の印象が強かった談志さんだが、素顔は違い、他人に対してここまで気を使うのかというくらいの気配りをみせる人だった。」(「産経新聞」2011年11月24日付)

「歯に衣(きぬ)着せぬ毒舌が世間を騒がせる」ことと、「他人に対してここまで気を使うのかというくらいの気配りをみせる」ことは、一見両立しないように見えるが、その両面があらわれた立川談志らしい事件が、有名な「客追い出し事件」だろう。

98年12月17日夜、飯田市の公民館で行われた立川談志の独演会で、客の会社役員が開演後、間もなく居眠りを始めた。

立川談志は、「お父さん、寝ちゃって大丈夫かい」などと言っていたが、しばらくして「やる気なくなっちゃったよ」と高座を降りてしまった。

このため、独演会の主催者が客に退出を求めると、「金を払ったんだから何をしてもいいだろう」などと言い帰宅した。

退出させたのは独演会の主催者だが、当時は立川談志が追い出したように報じられた。

いずれにしても、プライドをつぶされ、逆切れした客は、「落語を聞く権利を侵害された」と独演会の主催者に10万円の損害賠償を求めた。

10万円の請求だから、目的は金ではない。客の権利やプライドである。

それに対して99年4月21日、長野県飯田簡裁(内田義厚裁判官)は客の訴えを棄却した。

簡裁だが、和解ではなく判決になった。

判決によると、内田裁判官は、「居眠りは演者の意欲をそぎ、演目の続行に重大な障害になることがある。退出を求めた主催者の行為は社会通念上、相当と認められ、違法性はない」と、客の主張を退けた。

客は「事実関係を誤認していて非常に不満だ」と話し、立川談志は99年4月21日付の「毎日」で次のようにコメントしていた。

「訴えた人は言語道断。寝たことに怒ったのではなく、お客さんとの空間を壊されたことに腹が立った。裁判長には、客と芸人の空間を大切にしてくれたことに感謝している」

その一方で、実は吝嗇家だったという報道もある。『日刊ゲンダイ』(11月26日付)には、「立川談志、遺産はいくら?」というタイトルで、立川談志の資産を明らかにした記事が出ている。
演芸関係者はこういう。
「師匠は基本的にものすごくケチ。ぜいたくは一切しない。食事も自宅で食べることが多かった。食べ残しが大嫌いで、冷蔵庫で食材が傷んでいても絶対に捨てず、“捨てるくらいなら、食べて腹を壊した方がまし”というほど徹底していました。例えば『笑点』の前司会者で、09年に76歳で亡くなった5代目三遊亭円楽師匠の遺産は総額7億円近くあったと漏れ伝わってきましたが、円楽で7億なら、談志はそれ以上。10億円なんて声まであります」

談志は長男の慎太郎氏が代表を務める個人事務所「談志役場」に所属。役員は長男と妻の則子さん、長女の弓子さんと談志が務めていて、談志の仕事関係の窓口はここだった。当然ながら、膨大なDVD映像や著作の版権も事務所が管理。今後は追悼版DVDの作成なども予定されているため、死後もかなりの収入になるのは確実。

また、談志の遺産は版権料だけではない。不動産である。自宅マンションの他にも、練馬には一戸建ての家があり、他にも都内に有数のマンションを所有する資産家だった。

「根津のマンションには同じマンション内に3部屋を所有。他にも新宿と銀座にもマンションを1部屋持っていました。銀座のマンションは1億円の億シヨンでしたが、即金で購入したそうです」(演芸関係者=前出)
橘家圓蔵 (8代目、昔の月の家圓鏡)が、立川談志について面白いエピソードを話していたことがある。

橘家圓蔵と立川談志、毒蝮三太夫らで焼肉を食べに行ったとき、立川談志は

「毒蝮三太夫、お前が勘定払っておけ」

毒蝮三太夫は「これはプライベートですから割り勘で……」と言うと、立川談志は

「割り勘だとみんながいやな思いをするけど、お前が勘定払えばお前だけがいやな思いをするだけで済む」

この強引な理屈に、毒蝮三太夫も苦笑して支払わざるを得なかったとか。

立川談志は、当時毒蝮三太夫の事務所に所属して毒蝮三太夫を儲けさせていた。

毒蝮三太夫が年収1億円と豪語していた頃だ。

交際費はこういうときに落とせ、ということを立川談志流に諭したのだろう。

まあこんなことは氷山の一角で、面白困ったエピソードが満載の人だった。でも世の中、そういう人がいたっていいよね。

>>『上岡龍太郎 話芸一代』で改めて思い出す毒舌と皮肉とユーモア

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