
「トランス脂肪酸が心配だから、マーガリンは避けてバターを選ぶようにしている」 「昔、ニュースで体に良くないと聞いてから、なんとなく敬遠している……」
毎朝の食卓でパンに塗るスプレッドを選ぶとき、こうした不安や疑問を感じたことはありませんか?
かつて社会現象となるほど大きく報道され、「健康に良くない食品」という強いイメージが定着してしまったマーガリン。
しかし、「実は、今お店の棚に並んでいるマーガリンは、私たちが昔ニュースで見かけた時代のものとは『別物』と言っていいほど劇的な進化を遂げている」と聞いたら、驚かれるのではないでしょうか。
食品科学と製造技術の進化によって、「令和のマーガリン」は驚くべき変貌を遂げています。長年の誤解を爽快に解き明かしながら、知られざる最新事情と技術革新の真実を紐解いていきましょう。
トランス脂肪酸量は「約16分の1」に激減していた
今日の情報源です。
「マーガリン=体に悪い」はもう古い? 大手メーカーが明かす令和マーガリンの現在地
https://t.co/qB4nl0fRKF— オリコンニュース (@oricon) October 28, 2026
「マーガリン=トランス脂肪酸が多くて危険」という認識は、現在の数値データを見ると見事に覆されます。
日本を代表する家庭用ファットスプレッドである雪印メグミルクの『ネオソフト』を例に挙げると、2004年時点では10gあたり0.8g含まれていたトランス脂肪酸が、現在では0.05gにまで激減しています。これは当時の約16分の1に相当する数値です。
では、なぜこれほど強い不安や誤解が社会全体に広まってしまったのでしょうか。その背景を解き明かすには、フードサイエンスの視点と海外の規制ニュースの流れを整理する必要があります。
そもそもトランス脂肪酸には、牛などの反芻(はんすう)動物の胃の中でバクテリアの働きによって作られる「天然のもの」と、油脂の加工過程で生じる「工業的なもの」の2種類が存在します。
数々の研究により、健康リスクが問題視されているのは主に後者の「工業的なトランス脂肪酸」であり、天然のものは同様のリスクにはならないことがわかっています。
この工業的トランス脂肪酸の主因となっていたのが、液状の油に水素を加えて固形化する「部分水素添加油脂(PHO)」でした。
2015年、米国FDA(食品医薬品局)は、この部分水素添加油脂を「一般に安全と認められる物質(GRAS)」から除外することを決定し、2018年6月から使用規制を開始しました。
ここで重要なのは、規制されたのはあくまで工業由来の「部分水素添加油脂」であり、天然由来のものを含む「トランス脂肪酸全体」が禁止されたわけではないという点です。
ところが当時の日本では、「トランス脂肪酸が全面禁止された」かのような誤解を招く報道が一部で散見され、消費者の中に強い不安が再燃することとなりました。
過去の報道によるイメージが一人歩きしてしまいましたが、数値が示す通り、現在の国内大手メーカーの主要商品においてトランス脂肪酸は極限まで低減されています。
過去の記憶と現在の実態との間には、非常に大きなギャップが存在しているのです。
トランス脂肪酸を減らしつつ「塗りやすさと口どけ」を両立した技術革新

トランス脂肪酸を減らす取り組みは、単に「悪い成分を引き算すれば終わり」という簡単なものではありませんでした。
メーカー各社は、主な発生源であった部分水素添加油脂(PHO)の不使用化に着手。雪印メグミルクでは2010年9月に『ネオソフト』でのPHO不使用配合を達成し、2018年にはすべての家庭用マーガリン類での使用を完了(全廃)させました。
しかし、ここに極めて高い技術的ハードルが立ちはだかりました。
部分水素添加油脂には、「冷蔵庫から出してすぐでもパンにスッと塗れる柔らかさ」や「口に入れた瞬間に心地よく溶けて風味を引き立てる口どけ」といった、マーガリンならではのおいしさと利便性を生み出す理想的な物理特性があったからです。
PHOの代替として導入されたのが「エステル交換油脂」や、液状油(大豆油など)と固体状油脂(ヤシ油など)のブレンド技術でした。しかし、エステル交換油脂は従来の油脂に比べて「硬さを調整できる幅」が非常に狭いという大きな課題を抱えていました。
配合のバランスがわずかでも狂えば、カチカチに固くなってパン生地を突き破ってしまったり、逆にドロドロに溶けて風味が損なわれたりしてしまう——まさに薄氷を踏むような開発の難しさに、技術者たちは直面したのです。
この課題を克服するため、メーカーは以下のような高度な独自技術を開発・結集させました。
- 乳化技術:油と水という本来混ざり合わない素材を最適なバランスで安定維持させる技術
- 油脂加工技術:多様な植物性油脂の潜在的な特性を極限まで引き出す技術
- 結晶化制御技術:冷却して固める際の油脂の微細構造(結晶)をミクロ単位でコントロールする技術
食の安全性を第一に追求しながらも、消費者が愛してきた「塗りやすさ」「口どけ」「風味」を絶対に諦めない。
メーカーの執念とも言えるたゆまぬ試行錯誤と技術開発によって、安全性とおのおいしさの高次元での両立が完成したのです。
どっちを選ぶ?バターとマーガリンの「令和の賢い使い分け」
トランス脂肪酸への懸念がほぼ解消された今、バターとマーガリンはどちらか一方を排除するのではなく、それぞれの特性を活かして賢く使い分けるのが現代的なスマートスタイルです。
まずは両者の違いを一覧で整理してみましょう。
| 比較項目 | バター | マーガリン(ファットスプレッド含む) |
| 主な原料 | 牛乳(乳脂肪分80%以上) | 主に植物由来の油脂 |
| 風味・コク | 乳脂肪由来の芳醇なコクと豊かな香り | 軽やかでクセがなく、味わい設計(バター風味等)も多彩 |
| 硬さ・扱いやすさ | 冷やすと固くなり、室温に戻す手間が必要 | 冷蔵庫から取り出してすぐでも柔らかく塗れる |
| 価格帯・コスパ | 比較的高価 | 日常的に買い求めやすい |
| 適した主な用途 | コクや香りを主役にする料理、焼き菓子 | 朝食のトースト、サンドイッチ、日常の炒め物 |
特性を踏まえたおすすめの使い分けシーンをご紹介します。
バターが本領を発揮するシーン(風味や香りを料理の主役にしたいとき)
- ステーキの仕上げやムニエル、オムレツ:加熱された乳脂肪特有のリッチな香りと深いコクをガツンと効かせたい料理に最適です。
- クッキーやパウンドケーキなどの焼き菓子:焼き上がりの芳醇な香りと香ばしい風味が、仕上がりのクオリティに直結します。
マーガリンが本領を発揮するシーン(手軽さ・塗りやすさ・コスパを優先したいとき)
- 毎朝のトーストやサンドイッチ:時間に追われる朝でも、冷蔵庫から出してすぐにパン生地を傷めずスムーズに塗ることができます。
- 日常の炒め物や家庭料理:他の調味料や素材本来の味を邪魔せず、あっさりと軽やかに仕上げることができます。
物価高時代の救世主?「安さ」だけでない最新の消費者ニーズ
長年にわたり市場の縮小が続いていたマーガリン類ですが、近年の市場データには非常に興味深い変化が現れています。
かつて2013年度から2016年度にかけての3年間で、市場全体が容量ベースで約3割減という大幅な落ち込みを経験しました。しかし、2025年の家計調査では、購入数量・支出金額ともに前年を上回るというV字回復の兆しを見せたのです。
近年の相次ぐ物価高やバターの価格高騰を背景に、「値頃感」や「日常使いのしやすさ」が見直されたことも一因ですが、理由はそれだけではありません。
消費者調査によると、購入理由として従来の「価格が安いから」という受動的な理由だけでなく、「コクがある」「バターの風味が強くておいしい」といった、味覚そのものの進化に対するポジティブな評価が著しく増加しているのです。
さらにメーカー側も、技術的な低減にとどまらず、消費者の暮らしに寄り添ったアップデートを加速させています。
ワンタッチで開けやすい容器の開発、コレステロール値や原材料が一目でわかる裏面表示の工夫、さらには近年の少人数世帯の増加に対応した「使い切りやすい容量」の検討など、使い勝手と安心感を兼ね備えた商品づくりが進められています。
製品や輸入食品によって含有量には差がある
当該記事の多くは、雪印メグミルクの製品(ネオソフト等)や同社の取り組みをベースに語られています。
業界全体としてトランス脂肪酸の低減は進んでいますが、製品や輸入食品によって含有量には差があるため、個別の商品についても必ず記事のとおりであるという保証はありません。
スーパーにおいて競合商品が並ぶ中で、聞いたことのないメーカーの、妙に安い商品などは、注意したほうがいいでしょうね。
私は、家ではパンを焼いたりクッキーを食べたりということはないのですが、たまに市販の菓子パンを食べることがあるので、マーガリンは多少はお世話になっています。
皆さんは、マーガリンは使われていますか。


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