近年、SNSは私たちの生活に深く根ざし、著名人もまたそのプラットフォームを通じて自身の日常や考えを発信しています。その中で、自身の家族、特に障害を持つ家族を公開するタレントの姿を目にすることも増えました。そこには、共感する一方で、ダウン症や障害児の現実を誤解されるリスクも有るデリケートな問題が含まれています。(トップ画像はイメージ)
高嶋ちさ子が、最近、ダウン症の姉を露出する機会が多くなりました。
怪しい「暗号資産投資」の「広告塔」ではないかという報道があると、彼女はすぐに休養宣言をしました。
とても良い写真ですね。
家族愛が伝わります。高嶋ちさ子、ダウン症の姉・未知子さんとのLINEを公開「私の方が怒ってるよ」(ABEMA TIMES) – Yahoo!ニュース https://t.co/VEbRu3Rrof
— 江原俊浩 (@toshiehara) July 5, 2025
しかし、完全に表舞台から姿を消したわけではなく、時折、ダウン症の姉・未知子さんとのあれこれがSNSに投稿されるようです。
引退ではなく「休養」なので、忘れられてはならないようにという「話題作り」と、もうひとつは「世間への点数稼ぎ」という見方もできます。
「私はダウン症の姉(またはきょうだい)とも仲良くやっている」というメッセージは、タレント自身の人間性や共感性をアピールし、好感度を高める手段となり得るでしょう。
障碍者への、理解や支援が社会的に求められる現代において、そうした姿勢を示すことは、確かに世間からの評価を得やすい側面があります。
スキャンダルになりかけたタレントであれば、イメージ回復の一環として、倫理的で模範的な側面を強調したいという心理が働く可能性は当然考えられます。
「ダウン症」の多様性と誤解のリスク
しかし、懸念すべき点もあります。
最も重要なのは、「ダウン症」の多様性に対する、社会の理解がまだ十分ではないという現実です。
ダウン症と一口に言っても、その症状や特性は、一人ひとり大きく異なります。
普通学級に通っている人もいれば、重度の障害を抱えている人もいますし、それぞれに個性があります。
タレントが、SNSで公開するダウン症の家族が、たまたま軽度の症状で、ある程度のコミュニケーションが取れる姿であった場合、世間に誤ったイメージを与える可能性があります。
例えば、「ダウン症の人はみんなあのタレントの家族のように明るく、コミュニケーションが取れるんだ」といった短絡的な認識が広まってしまうと、実際に重度のダウン症を持つ人やその家族が直面している困難が見過ごされてしまうことになりかねません。
逆に、未知子さんに対する批判もあるようですが、このポストに従えば、ダウン症⇒クレーマーという偏見の温床にならないとも限りません。
障がい者様キモチワル……いやちさ子もトントンだが
「ダメなんです失礼ですよ」「スタッフどうなってる」 高嶋ちさ子、“ダウン症姉”から出演番組で激怒クレーム 直筆の“反撃内容”が「なんか怖い」(ねとらぼ) https://t.co/6PXjwkr56O
— チェケライムP14? (@gn_hyuga) July 4, 2025
そもそも、高嶋ちさ子の姉・未知子さんは60歳で、クレームを付けるほど自覚もありコミュニケーションもできるようですから、ダウン症の中では「重度」ではないように思われます。
私が知る限り、正真正銘の重度の障害がある「著名人の家族」は、手術を繰り返している野田聖子議員の息子さんぐらいではないかなと思います。
結果として、特定の側面だけがクローズアップされ、ダウン症の人の全体像が歪められて伝わることで、無意識のうちに差別や偏見を助長してしまうリスクもはらんでいます。
以前、金澤翔子さんについて、障碍者の鑑のような評価をしている人もいましたが、そういうことを私は恐れているわけで、重度のダウン症は、書道や、始球式や、Xの投稿や、『徹子の部屋』の出演などはしません。できません。
翔子が東京ドームの始球式に登場します??
8月9日(金) 巨人×ヤクルト戦の始球式で投げます。上手く投げられるかなぁ ユニホームがブカブカだったらどうしよう・・・
いろいろ心配。 pic.twitter.com/rwoRhCekPN— 金澤翔子 公式ツイッター (@shoko_kanazawa) August 5, 2019
もちろん、未知子さんや金澤さんに、表舞台に出てくるな、なんて言っているのではありませんよ。
「ダウン症でもこれだけ頑張っている人がいる。できないあなたは努力不足だ」みたいな、間違った方向の「感動」や「教訓」が生まれることを危惧しているのです。
そこは誤解なきよう、お願いします。
「公開」の倫理と当事者の意思
さらに深く考えるべきは、家族を公開する際の倫理的な問題です。
未知子さんや金澤さんは、そうではないようなので、これは一般論ですが、障がいを持つ家族、特に意思表示が難しいとされている重度障害の方々にとって、自身の姿がSNSで不特定多数の人々に公開されることについて、彼ら自身の意思がどこまで尊重されているのかという疑問が浮上します。
タレントが、「家族のため」と考えているとしても、それは本当に公開される側の幸せに繋がっているのでしょうか。
プライバシーの保護や、将来にわたる影響について、慎重な配慮が不可欠です。
もちろん、家族を公開することが、結果的に障がい者への理解促進に繋がるケースも存在します。
障がいを持つ人々の日常を垣間見せることで、これまで障がい者と接点のなかった人々に、彼らの存在を身近に感じてもらい、共感を呼ぶきっかけとなる可能性は十分にあります。
しかし、それはあくまで適切な情報提供と、当事者の意思尊重が大前提となります。
真の理解促進のために必要なこと
では、真に障がい者への理解を促進するためには何が必要なのでしょうか。
単なる「点数稼ぎ」や「話題作り」ではなく、以下のような視点が求めら
れます。
1.正確な情報と多様性の提示
2.当事者の声の尊重
3.社会貢献への明確な意図
4.プライバシーへの配慮
重要なのは、その発信が本当に社会全体の障がい者理解の深化に貢献しているのか、そして公開される家族の意思と尊厳が守られているのかを、常に問い続けることだと思います。
タレントの影響力は絶大です。だからこそ、その発信にはより一層の責任が伴います。
一過性の話題作りや好感度アップのためではなく、真に社会貢献を目指す姿勢こそが、世間の共感と信頼を得る道なのではないでしょうか。
このブログ記事が、タレントのSNS発信について考える一助となれば幸いです。
障害児相談支援ハンドブック – 松下 直弘, 田畑 寿明, ほか, 全国児童発達支援協議会, 障害児・者相談支援事業全国連絡協議会, 宮田 広善, 遅塚 昭彦
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