障害者が公共交通機関や映画館などで割引になることについて、しばしばネットでは不平等とか逆差別だといった意見があります。ネットで指摘されていることにはデマも少なくありませんが、一部割引があるのは事実です。ちょっとその点考えてみました。
障害者は優遇されているのか
いささか旧聞になりますが、元アナウンサーの長谷川豊氏が、ブログで人工透析について暴言を書いて叩かれた時、透析患者だけでなく、障害者もターゲットになっていたことが取り沙汰されました。
まとめ記事にまとめられた発言内容から引用しますと、
- 障害者は映画半額、公共交通機関利用料半額、タクシー初乗り無料、ディズニー横入りし放題(ガセ)
- 1級障がい者は医療費をすべて無料で受けられる(ガセ)
など、障害者福祉は無駄遣いである、という話です。
これに対する回答の前に、まず、障害者とは何か、というところからはっきりさせましょう。
障害者とは?
一般に、障害者とは、障害者と認定された人、障害者手帳を持っている人です。
そして、障害者の福祉サービスは、障害者手帳、ないしは、自治体が障害者に発行する受給者証で受けることができます。
ですから、障害者福祉サービスを受けている人は、自称ではなく客観的に何らかのハンデがある人です。
不正受給という問題はありますが、それは「不正」をするものが悪いのであって、障害者福祉サービス自体の意義は別問題です。
障害者手帳の種類と使い方
障害者手帳は、
- 身体障害者手帳
- 療育手帳(知的障害)
- 精神障害者保健福祉手帳(発達障害等精神障害)
という3種類あります。
それぞれ等級(度数)によって福祉サービスがあります。
障害者によっては、手帳を複数持っている人もいますし、手帳をとらない人もいます。
また、手帳は持っていても、福祉サービスは受けていない人もいます。
福祉サービスの内容は手帳によって、障害の重さによって、また自治体によってまったく異なるので、そもそも「障害者は」という主語で一括りに出来るほど単純ではありません。
その限りにおいても、先の長谷川豊ブログはいい加減です。
障害者割引はなぜあるのか
無償化や割引自体は、国会で決まったわけではなく、自治体によってそれはあったりなかったりまちまちです。
いずれにしても、こういうことをもって、障害者は儲けているという馬鹿らしい思い込みが、一部国民の心の中に沈殿しており、何かあると、障害者たたきのバックボーンになるんですね。
厚生労働省によるアンケートでは、平成25年10月現在の障害者の平均賃金(月)は、健常者が300k円のところ、身体障害者が59k~251k円、知的障害者が35k~130k円、精神障害者が47k~196k円です。
kはゼロ3つです。
金額に幅があるのは、フルに働けない場合があるからです。
要するに、障害者、とくに知的障害と精神障害者の賃金が低いのです。
しかし、商店の値札は、個々の商品の価格において原価やサービス料がかかりますから、いちいち障害者に安くはしてくれません。
そこで、公共の交通機関や、映画館、博物館、美術館などで配慮をしましょうということです。
自治体によって違いますが、たとえば都営交通(都営地下鉄や都バス)は無料パスがあります。
ただし、その場で自己申告でも改札は通してくれません。パスを取る手続きが必要です。
私鉄は、高齢者はわかりませんが、障害者は半額です。
というとまた、障害者が得をしているという話になってしまうのですが、手帳持ちの障害者には付添がつくことが多いので、2人で1人分という勘定で、別に障害者が得をするわけではありません。
ちなみに付き添いが介護サービスならそれ自体有料です。
まああとは、障害者はお金もないし不自由だからつい家に引きこもってしまいがちなので、安くしますから外に出て是非映画でも観てください、という意味もあると思います。
というとまた、「障害者でも実家が金持ちはいるだろう」と食い下がるつまらない人たちがいるのですが、実家が金持ちなのはその人の個人的な「ほしのもと」の話であって、「障害者だから配慮する」という“社会的な話”とは関係ありません。
それに、こうした「優遇」は障害者ならみな黙っていても受けられるわけではなく、自ら手続きして申告しなければできません。
「交通費減免? 映画館半額? いいよ、手帳取るほうが面倒だし外聞悪い」
という「お金持ち」は実際います。
いや、経済状態関係なく価値観の違いで、手続きする人もいればしない人もいます。
それ以外に、受給者証を使った障害者福祉サービスもありますが、所得に応じて課金されていますので、障害者でも世帯として裕福ならちゃんとお金は取られています。
「障害者優遇」具体的な間違い
障害者は映画半額
映画館によって違います。
つまり、ルールとして存在しているわけではありません。
たとえば川崎のチネチッタは、一般1800円が障害者手帳の本人と同伴者それぞれ1000円。
3Dは一般2100円が1300円。
テアトル蒲田は1800円が本人と同伴者1名が1100円。
品川プリンスシネマは1800円が1000円。
3D作品鑑賞料金 基本料金+400円などです。
公共交通機関利用料半額
結論として、すべての公共交通機関の運賃が半額になるわけではありません。
また、障害者であれば自動的にサービスが受けられるわけではありません。
JRの場合、第1種心身障害者は介護人とも運賃が半額になります。
が、第2種心身障害者は割引が受けられるのが介護人のみで、定期券購入の場合に限られます。
また、介護人なしで障害者が一人で電車を利用する場合は、片道の営業キロ数によって割引かれない場合もあります。
都内に在住する心身障害者は、身体障害者手帳または愛の手帳があれば都営交通は無料乗車券が交付されます。
タクシー初乗り無料
初乗り無料ではありません。
身体障害者手帳、愛の手帳、精神障害者保険福祉手帳所持者は、手帳による本人確認で運賃の1割が割引されます。
ディズニー横入りし放題
論外
1級障害者は医療費をすべて無料で受けられる
結論から書くと、すべての1級障害者(そもそも何の障害1級なのかが明らかにされていないが)の医療費自己負担がゼロであるということはありません。
ゼロでない場合も、自治体によって違います。
たとえば東京都大田区の場合、心身障害者の医療費助成自体はあります。
65歳未満で、身体障害者手帳1・2級(内部障害にあっては3級、また内部障害が4級であっても障害の重複により手帳3級と認定された人も含む)または療育手帳1・2度の人。
さらに国民健康保険および社会保険の加入者は医療費の助成を受けられます(ただし世帯所得額などにより助成の制限あり)
保険証を使って診療を受けた費用が助成されますが、住民税が課税されている人は1割負担および入院時の食事代を自己負担です。
非課税の人は、入院時の食事代のみ自己負担。
このほか、特定の疾病を対象にした難病医療費の助成、精神障害の人が精神科等に通院している場合や、身体障害者の職業能力を増進させたり日常生活の便宜をはかるための医療など自立支援医療にかかる負担の助成などがあります。
重度障害者が「障害者優遇」について語る
『チョビつキ~ズ -Chobi2key’s-』という動画チャンネルをもっているシュンスケさんは、同チャンネルの動画で、「障害者優遇」についてこう語っています。
「障碍者割引っていうのは、我々重い障害を持っている人間がね、収入源がなかなかないんですね。一般企業で働けるのがむずかしいと。一般企業で働けるようにしてほしいよ、そりゃ。でも、むずかしい。一人ついてもらわなきゃいけないし。介助者に。トイレ介助とかね。まさかね、同じ職場で働いている同僚にやってもらうわけにはいかないでしょう。食事介助とか。そんなに(手間はかからないけど)、封を切るとか、ペットボトルのフタを開けるとか、そういうところをしてもらえればいいぐらいなんだけれども、パソコンの技術は人並みと言うか、出来る範囲では(仕事は)できるので、働ける能力はあるけれども、生活介助的な部分では難しいから一般就労できないわけなんですね。そういう我々にとっては、娯楽施設とか、割り引いてくれるのはすごくありがたいです。ただ、同じ障碍者でも、はたらいて収入がいっぱいある人でも割り引かれるのはズルくね?って思います」https://youtu.be/ycUkjWTts2E より私は障害者ではありませんが、別に「ズルくね?」とは思いません。
ひとつは、それは実質「手当」と同じですから、障害が受給するもので、「ほしのもと」は関係ないからです。
もうひとつ、現在のサービス自体の問題です。
たとえば、警視庁は、重い障害がある人に対して、駐車禁止除外制度を設けています。
車による移動もあるだろう。だから、駐停車禁止のところで駐停車していてもいいよ
という制度です。
制度自体は、障害者の実態にかなったものですが、ただし、障害者全員ではなく、たとえば、療育手帳は1~2度の人で、3~4度の人は含まれません。
しかし、療育手帳というのは知的な障害を見るもので、1~2度に比べて、3~4度の人は車が必要ないということではありません。
つまり、現在のサービスの線引きには、合理性を欠いているものもあります。
そこで、さらに障害者の受給資格に自ら制限をかけるようなことはいかがなものかと思います。
障害者のまとめ
障害者には、一部官公庁、自治体、企業などによって、便宜が図られたり、料金の割引があったりします。
健常者はそれを「障害者優遇」といい、障害者の一部にも、金を持っている、もしくは稼いでいる障害者が制度の適用を受けるのはズルいという意見があります。
しかし、障害者は収入が少なく、出歩ける選択肢も制限されている場合が多いので、公共交通機関や映画館、博物館などで割引があり、足を運びやすくしています。
障害者割引は障害に対するものであり、その人や実家の経済状態で変わるものではありません。
以上、障害者が公共交通機関や映画館などで割引になることについて、しばしばネットでは不平等とか逆差別だといった意見あり、でした。
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