『男はつらいよ』は松竹映画では49作公開されていますが、もともとフジテレビがテレビドラマで半年間放送していました。映画の少なくとも最初の2作は、そのテレビの設定を「原作」としているように思うので、テレビドラマを振り返ってみます。
『男はつらいよ』の映画第1回が、BSジャパンで放送されました。
寅次郎が久しぶりに葛飾に帰ってきて、さくらは博と結婚し、はやくも満男が生まれます。
『男はつらいよ』はテレビドラマが「原作」で、すでにその時点で観客は、さくらは博という人と結婚したことも知っているので、映画の第1話は原作がすでに描いている設定に追いつかせることから、駆け足というか密度が濃い展開になっているのだとおもいます。
テレビ版の第1回と最終回と山田洋次・小林俊一対談が入ったDVDを持っているので見直してみました。
『男はつらいよ』は小林俊一の演出による作品で、山田洋次は脚本のみ担当だったのですが、テレビの最終回で寅次郎を死なせてしまって文句が来たので、罪滅ぼしに映画を作ったという経緯だそうです。
もともと山田洋次監督で長く続けるという意志があったかどうかはわかりません。たぶんそこまでは考えていないかなとおもいます。
ちなみにテレビでは寅さんには一応恋人がいました。
市原悦子です。
また、さくらは印刷工場の工員ではなく、医師の諏訪博士(井川比佐志)と結婚するのですが、その前には別の恋人(横内正)もいました。
ちなみに、テレビ版のさくらは、長山藍子です。
映画の第3話と第4話は山田洋次監督ではなかった
映画の『男はつらいよ』の話に戻りますと、映画3話それぞれに目玉があって、第1話が博と父親の和解で、第2話で寅次郎の母親(ミヤコ蝶々)が出てきます。
3話目は山田洋次監督ではなくて「系列」の森崎東監督なので、作品のテイストがやはり少し違います。
倍賞美津子が森崎東監督でデビューしていますが、その時の相手の河原崎健三が出演しているので、倍賞美津子が出るとすれば第3話が出演のチャンスだったかもしれません。
第4話もテレビ版の演出をやっていた小林俊一が監督なので、たぶん山田洋次としては、ここで義理は果たしたと思ったかもしれません。
第4話については、地方ロケすらありませんでしたから、ここで一区切りという思いがあったかなとおもいます。
ただ松竹から、人気があるからもっと続けてくれという話になって、5作目以降は自分が監督でイケるところまで行こうということになったのかもしれません。
山田洋次監督が言うには、「渥美清さんの目を通しての日本人や日本の社会について、もっと話を聞いておくべきだった」と後悔をしているのですが、考えてみると渥美清は自分で本は書いていないのです。
たぶん難しい人なので、ゴーストライターに代わりに書いてもらうなんてこともむずかしかったでしょうから、私もそれは聞いてみたいと思いました。
最終回は、ハブに噛まれて死ぬわけですが、現実的には確率は極めて低く、そういう意味ではシュールな展開です。
佐藤蛾次郎演じる映画の源公が、テレビでは寅次郎の種違いの兄弟という設定になっているのですが、テレビの最終回ではさくらの家を訪ねてきて、寅次郎がハブ酒で一山当てようとして奄美にハブをとりに行って噛まれたと報告しています。
寅次郎らしい終わり方として、風邪をこじらせたり悪性腫瘍で死んだりするよりは、ハブに噛まれたほうが「らしい」と思ったのでしょうし、山田洋次監督のそういうセンスは面白いのですが、それだけに国民的映画になってからは、もっとハチャメチャにやりたいのに我慢して作ったんだろうなあという気がしますね。
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